小説
□焦がしキャラメル
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微笑を浮かべた顔立ちが崩れることはなく、しかし、彼女の瞳からは涙がこぼれ落ちる。
ぽたぽたと落ちる涙を眺めながら名無しさんは片手に持っていた携帯電話を弱弱しく手放した。
「だめ…やっぱり1人じゃ…」
涙を拭いながら近くにあるブランケットをたぐり寄せると、顔をうずめ声をあげて泣きじゃくった。
心が凍るような感覚が湧き上がってくるのを止めることは出来ず、ただただ涙を流した。
一通り落ち着き、名無しさんが浅い眠りから目覚めた時には日が落ちていた。
「…ご飯用意しなきゃ」
時刻を確認すると、まだおぼつか無い体を起こしながらキッチンに向かった。
食材を扱う手に温もりはまだ戻ったわけではないが、これから過ごす時間を必死に思い起こす。
「大丈夫、大丈夫…もう1人じゃない」
温かなリズムを刻む鍋を眺めながら、徐々に名無しさんの表情は穏やかになっていった。
そして、支度が一段落したところで再び時刻を確認するとキッチンを離れ、いそいそと玄関へ向かった。