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□先生、嫉妬はいけません
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世間のモラル?常識、非常識?
そんな事言われても、今更この想いを捨てろと言われても更々無理だし?
てか、離す気なんてこれっぽっちもないし。
窓の外から教室に差し込むのは、朝日とはまた違った暖かさを持つ、夕日。其処に或るのは、高さが全くもって違うふたり。この教室で授業を受ける、言わば生徒と、生徒達に常識を叩き込む、教師。
ふたりはお揃いの金髪を夕日で輝かせながら、静かに佇んでいた。
「・・・鏡音、分からない事って、何」
生徒の名前を静かに言い放つ教師の名も鏡音レン、なのだが、今近くの机に腰を掛けている生徒も、鏡音リン、と言う名だ。だがまるっきり血縁関係はない。赤の他人だ。
「・・・知ってる、癖に。態々聞くの?せんせ」
其のふたりが何故、ふたりっきりで教室に居るのか。それはリンがレンに、「分からない事がある」、と呼び出した為だ。レンはふたりっきりで居ることを控えたかったのだが、生徒としての頼み事としては、教師としてスルーしてはいけない。
「・・・何で最近、あたしを避けるの?」
だが。このふたりは、普通の"先生"と"生徒"ではない。
「・・・さあね?」
リンはレンのネクタイをゆっくりと解くが、レンはそれを止めようとしない。やっぱりふたりになると、リンは積極的になる。
そう、所謂禁断の関係。恋人同士なのだ。
「何よそれ?先生は、あたしの事嫌いになったんだ」
「・・・んなわけねぇだろ」
手に持っていたネクタイをグイッと引き寄せ、勢いのまま唇を重ね合わせる。リンはゆっくりと舌を差し込もうとしたが、レンがそれを引き止め、ゆっくり体を離した。
「・・・ほら。前は所構わずキスしてくれたのに?それでも、嫌いじゃないって言えんの?」
「・・・嫌いなわけないだろ。俺には"リン"しか居ねぇし」
「じゃあ、何で・・・・・・?」
そう、リンの分からない事は――・・・。
「あたし、先生が・・・・・・、レンが、分からないよっ・・・」
前までは、先生とか、生徒とか。世間のモラルとか関係なく、レンはリンへの愛を、体中で表していた。もちろん、他生徒には気付かれぬまでに。
けれど、最近はどうだろうか?授業中目があってもすぐ逸らす、そしてこうしてふたりっきりの時も、触れ合うことを許してくれない。
前までは、先生から触れてくれたのに。
先生は、あたしの事が、嫌いになったんだ――・・・?
「・・・せんせ?」
暫く黙り込んでいたレンが、すっと俯いていた顔をあげて、リンの目をじっと見る。
「・・・単なる、噂かもしれないけど」
「?うん」
レンの顔は、いつも見せる余裕のある顔では無くて。
少し幼く見えた。
「・・・リンが。初音と抱き合ってた、とか」
「・・・は?」
初音とは、リンと同じクラス、そしてレンが受け持っているクラスの一員、初音ミクオ。リンはミクオとは余り親しくない。普通に話せる仲だけれども、抱き合う仲でも何でもない。リンは、レン只ひとりが好きなのだから。
「・・・一週間ぐらい、前。此処で」
「・・・あ、あ!アレか!」
そうだ、確かに一週間前の今ぐらい、あたしは初音と此処に居たなあ、とリンは思う。けどアレは、やましい気持ちがあっての事ではない。
「アレ、只の事故。あたしが転びそうになって、初音が支えてくれたの。漫画みたいだけどね」
「え・・・・・・」
そう、只の事故。リンはミクオに興味はない、それにミクオには、彼女が居る。
「・・・せんせ、嫉妬?」
「・・・っ」
レンのこの気持ちは、他でもない嫉妬。リンはそう思うと、この人は自分の事を本当に愛してくれてるんだなあと、嬉しくなる。
「・・・せんせ。嫉妬はダメですよ?」
「・・・大人、だから?」
「まさか!違いますよ」
リンはニッコリとレンに微笑む。
「・・・あたしは、レンしか見えないもの。嫉妬なんて、無駄なのよ」
「っ・・・!」
上目遣いで自分を覗き込む、リンの姿が余りにも扇情的で。その上、嬉しすぎる言葉。
煽るのもいいところだ。
「・・・ね、レン」
「・・・・・・。何?」
つつ・・・とレンの唇をなぞるのは、リンの綺麗な人差し指。
是れは、リンが誘っている証拠。
「・・・レンの家、行きたいの」
「・・・リン」
「其れぐらいいいでしょ?最近触ってくれてなかったし」
「・・・・・・」
リンはレンの目をじっと見て、確信する。レンの瞳の奥には、情欲がチラついていて。
「ねぇ、レン・・・・・・」
「っ・・・いいよ。来いよ」
結局、押しに負けたのはレンで。
この先自分が、リンに狂うのはハッキリと分かっていて。
けど今更、引けない。・・・否、引きたくない。自分だって、リンに触れたいのだから。