声優
□子猫
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「ねぇ,鈴菓」
『んっ?何?』
「外行かない?息抜きがてらに,ねっ?」
外は,思ったより暖かかった。屋根の下にいる事が多い私にとっては,最高のひなたぼっこ日和だ。
裕貴と手を繋ぎ,同じスピードで道端を歩く。たまに吹くそよ風が気持ちいい。
「どう?外に出て良かった?」
『うん。あったかくて,ポカポカしてて…すごく気持ちいいよ』
「そっか…」
まばゆい笑顔で私の隣を歩く裕貴。私も自然と笑顔になる。
歩いていると,様々なものが見えてくる。鳥や虫や蝶々,小さな花まで…。私は,目に入ったものにすぐ興味が湧いた。
『裕貴,これ見て!こんな所にタンポポが咲いてる!』
「ほんとだ。よくこんな所で咲けたもんだ」
『あっ,あっちにも咲いてるよ!』
「えっ,どこ?」
外での散歩は,案外楽しかった。今まで見たことのなかったものが見えるから。部屋でずっと丸くなっていた私には,ちょうどいい気分転換になった。
途中,たくさんの花が咲いている公園に立ち寄った。花の甘い匂いを胸いっぱいに吸い込んでいると,裕貴が後ろから抱きしめてきた。
『裕貴…?』
「鈴菓の身体,甘い香りがする…」
『えっ?ほんと…?』
「うん,ほんと。あっ…髪も,いい香り…」
そう言いながら,顔を耳元に近付ける裕貴。吐息が当たって擽ったい。思わず身体が捩れる。
「…かわい」
『……っ!』
そうして,私の耳元で小さく囁いた裕貴は,抱きしめていた腕を解き,呼び掛けるようにこう言った。
「さて…じゃあ帰ろっか。帰ったら,お前の大好きなホットミルク,作ってあげるね…」
たまには,散歩もいいかもしれない。
end.