護衛は、常に無線で連絡を取り合っている。
無線機は一人がボタンを押し、数多くある周波数の中から、同一の周波数を関知するコネクタと呼ばれる部品を通して、同じ他の無線に音声を届ける。
そのため、一人が話すと他の人間はその人物が話終わるまで声を挟めない。
なので、人数が多いと結構大変なのである。
もちろん、双葉護衛班も例外ではない。
《やっほー。こちら00。みんな聞こえてる?どうぞ?》
《こちら01。感度良し》
《はいは〜い、05感度良し》
《06感度良しです》
《俺も!!感度良し!!》
《ごらぁ!!番号答えなさいつって言ってんでしょうが!?》
《う゛っ、ま、03感度良し》
《07感度良し》
《02と04も感度良しです》
《よっし!それじゃあ通達事項!
1300訪問予定一名
1600別邸警戒配備
後は各自通達!!
不明事項は8秒以内完結質問!!わかった!?》
《《《《《《《了解っ!!》》》》》》》(同じ言葉は面倒なので一括)
《ちなみに06!!》
《はい、こちら06です》
《護衛には慣れた!?》
《はい。お陰様で》
《そう?それじゃあ引き続き07宜しく!》
《はい。頑張ります》
《おい!?何で俺が宜しくされなきゃいけないんだ!?…ですよ》
《こら!!8秒守れ!!バカ!!》
《お、落ち着け00!》
《叫ばれると俺らの耳がヤバい!!》
《また後でな!!07!!健闘を祈る!!》
《は?どういう意味…》
《頑張っ!!》
《しっかりやれよ〜》
《???》
無線での賑やかな定期連絡が終わった火神は、一方的に打ち切られた無線内容に首を傾げ、隣にいる黒子へと視線を向け……
「うぁあああああ!?」
突然大絶叫を上げた火神は、ズデッ!!っと地面にしりもちをつき、腰が抜けた状態で黒子からズサササッ!と距離をとった。
黒子は、そんな火神を心配して声をかける。
「大丈夫ですか?火神君?」
「ななななな!?」
「何が言いたいのかはなんとなくわかりますが…火神君は護衛なんですから、常に冷静でないと駄目ですよ?」
そう言って首を傾(かたむ)ける黒子。
そんな彼と同意するように、彼の腕に抱き上げられていた仔犬も首を傾げて「ワン!」と吠えた。
その吠え声に、火神の顔が更に引きつり、その顔からは脂汗が浮く。
もうお分かりだろうか?
そう、彼は犬が大の苦手なのである。
火神は犬に対する恐怖で体を震わせ、視線を彷徨(さまよ)わせながら叫んだ。
「お、お前!いつの間に犬なんか抱えてやがったんだ!?」
「ついさっきです」
「ぅおい!?そいつを俺に近付けるんじゃねぇー!!大体!!何でそいつが此処にいるんだ!?」
「今日はテツヤ2号の健康診断と予防接種の日なんです。執事長が別邸に獣医を呼んでくれたので、これから連れて行かないといけません」
「ワン!!」
「わ、わかったから!!俺に近付けるなーー!!」
火神の必死な嘆願の声に、黒子は無常にも首を振る。
「駄目です。皆さんから火神君の苦手克服を頼まれてるので、火神君がテツヤ2号を別邸に連れていくんです」
「嫌だ!!俺はぜってーいかねぇ!!お前がいけばいいだろう!?」
「僕は今からここの警備です」
「俺が変わる!!」
「駄目です。僕がサポーターに怒られます」
「触れねぇ俺が連れて行けるわけねぇだろ!?」
「ゲージならここに準備してあります」
「無理だ!」
「駄目です。これは強制ですから…はい。これで大丈夫ですから、テツヤ2号を宜しくお願いします」
そう言って、黒子はテツヤ2号をゲージへ入れると、まだ腰を抜かしていて逃げるに逃げられない火神の腹の上へと置いた。
「っ〜〜〜!!」
「それでは僕は警備業務があるので失礼します。終わったらサポーターのところに連れて行ってあげてくださいね?」
そして、黒子は火神にペコリと頭を軽く下げると、その場に火神を放置したままスタスタとその場から立ち去った。