腰を抜かした火神を放置した黒子が向かった先は、月花の庭だった。
そして、そこへ到着した黒子は、早速庭園の巡回を始める。
この庭は本邸の四方に存在する他の庭と同じように、塀(レンガではなく、謎の硬い物質で出来ている)を基盤の骨組みとした垣根の迷路からなっていた。
その規模は広大で、初めて双葉邸へ訪問した人間が興味本意に立ち入ろうものならば、一生脱け出せないような人工の庭だ。
……そう言われれば、恐怖しか感じないだろうが、本質は普通の庭と変わらない。
花も、池も、噴水も、彫刻も、果てには休息所までありとあらゆるものが設置してある。
つまり、庭に不慣れでなければ、双葉邸宅の庭は素晴らしく快適な庭なのだ。
たまに時間帯が悪ければ、弾丸や薬莢、武器の残骸、殺し屋の死体などにも遭遇してしまうが、それらは使用人が逐次片付けている。
なので、双葉家と懇意にしている訪問者であれば、必ず庭を回る時は双葉邸の執事に付き添ってもらわなければならない事を知っていた。
勿論。万が一、何かあっても地下に張り巡らされている緊急脱出経路もあるので問題はない。
そんな月花の庭を、黒子は監視カメラやトラップが正常に動作している事を確認しながら、庭の奥へ奥へと進んでいく。
「……………」
実は少し前から、噴水の近くに人の気配があることに気付いた黒子は、その場所へ向かって歩いていた。
その気配が動く様子はないので、侵入者ではない筈だ。
しかし、それでも気配がある以上、護衛である黒子はその気配が何者であるかを確かめなければならない。
(……気配の現れ方も…少し妙でしたし)
管理室に報告するべきかと迷いながらも目的に到着した黒子は、垣根の影から自身の気配を殺したまま謎の気配の主を探る。
すると、その噴水の縁には、見覚えのある服装と髪型をした女性が、鋏で花を綺麗に整えながら花瓶に生けている姿が見えた。