大好きな彼と結ばれて約10ヶ月後、私は無事に彼との子供を腕に抱きしめることが出来ました。
そして、彼は周囲の人間が予想していた通り……
「ほ〜ら!!高い高いッスよ!!」
「あ〜…あ、う〜」
「っ〜〜〜!!超可愛いス!!流石俺と鞘っちの子供っす!!目許なんか特に俺に似てないッスか!?あ。可愛い口許は鞘っち似ッスね!?」
……ウザい程の親バカでした。
「涼太?」
「あ!鞘っち!政はもう終わったんスか?」
「うむ…ところで、涼太は此処で何をしてるのだ?」
鞘は老中達との会合を終えて一人で部屋に戻ろうとしていたら、庭の柿の木の前で袴を手繰り上げ、腕捲りをしている涼太を見つけた。
「あそこに美味しそうな柿の実がなってるんスよ!あれを取って鞘っちに食べさせようと思ってたんス!そしたら良い母乳が出て子供にも良いと思うんスよね!!」
「うん……まぁ、その心意気は褒めてあげたいけどね?それじゃあ、まるで今の私の母乳が不味いみたいな言い方ではないかい?」
「へ?あ!いや、違うッスよ!?鞘っちの母乳は滅茶苦茶旨いッス!!この前飲んだ時なんか、俺危ない趣味にハマっちゃうかと…」
「だぁあ―――!?お前は馬鹿か!?御天道様が中天にある時に恥ずかしいことをいうではない!!」
顔を赤らめながら誰が通るかもわからないような庭のど真中で、不謹慎な発言をする黄瀬に、鞘は渾身の飛び膝蹴りを喰らわせた。
「〜〜〜っ!!鞘っち!俺の息子が不能になったらどうするんスか!?」
「五月蝿いバカ!!それ以上言ったら本当に握り潰すぞ!?」
「酷っ!?……でも、久しぶりに鞘っちに怒られたのは嬉しいッス」
「え?」
「…ほら、俺最近子供にばっかり構ってて…鞘っちに寂しい思いをさせてたんじゃないかと思って……」
そう言って、涼太は普段周囲にはあまり見せないような、シュンとした表情で落ち込んでしまった。
私はそれを見て思わず、何なのこの子は!?無性に頭を撫で撫でしてあげたいな!!コンチクショー!!っと叫びたい気持ちに駆られるが、何とか必死に押さえこむ。
だって、此処は庭!!誰が通るかもわからないような庭の真ん中で叫ぶなんて!!駄目!!絶対!!
そんなこんなで、何とか感情を鎮めると、まだ落ち込んでいる涼太に優しく話しかける。
「…………それで?何で庭の柿を取って食べさせるのに、そんな格好になるのと繋がるのだ?」
柿を取るなら庭師に頼むか竹を使えば済む話なのだ。
それに涼太が取ろうとしている柿は、確かに頑張って跳び上がれば届きそうではあったが、その後の着地には不安が残るような高さにある。
「無理して怪我でもしたら大変だし…竹を使ってとった方が良いと思うが?」
「ん〜…でも、それじゃあ、なんか達成感的にイマイチというか…やっぱりこういうのは直採りに限ると思うんスよ…」
なおも跳び上がりに拘る涼太に、私は仕方ないなぁと思いながら、それでも説得を試みることにした。
「例えばだが…此処でもしも涼太が柿を取ろうとして、着地を失敗したとする。そして、涼太は運悪く頭を打ち付けて半身不随になったとしよう…そしたら涼太は可愛い我が子を育てることも、抱くことも出来なくなって布団の中で寝たきりに、私はそんな涼太に愛想を尽かして他の男の元へ…」
「行くんスか!?」
「いや、例え話だがな?」
「例えでもそんなリアルに溢れた例え話なんて聞きたくないッスよ!!」
「涼太…」
「鞘っちは俺だけのもんッス。絶対、誰にも渡さないス」
そう言うと涼太は真剣な顔をして私の腕を掴むと、グイッと私を引寄せてそのまま噛みつくように唇を喰んできた。
「ん……は、ん………ちょ、…りょ、た」
「もう黙るッスよ………」
俺にそんな酷い例え話をした鞘っちが悪いんスよ?
そう言う涼太の瞳は、嫉妬と情欲を孕んでいて……………私はその瞳に呑み込まれるようにして、その場に押し倒された。
〜彼の嫉妬深さを甘く見てました…〜
その後、偶然通りがかった黒子君が、庭にいる私達を見つけて人が来ないように立ち入り禁止にしてくれたことを知り、穴があったら入りたいほど恥ずかしくなった