キセキで大奥

□緑間編
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「オレは子供になど興味はないのだよ」



緑間慎太郎は寝所に来て私に会うなり、開口一番にそんな言葉を宣った。



「………………は?」



私はこの時、彼が一体今ここで何を考えているのか、その頭をかち割って調べてみたいと本気で思った。


彼は自ら望んでこの寝所に私を呼んだのではないのか?わざわざそんな嫌みを言うために私を呼んだのか?改めて私を傷付けるために来たのか?



(……彼は本当に私との子など欲しくないのだ)



改めて自問自答すると、胃の腑の奥がギリッと痛みを訴えた。













緑間とは二週間前に初めて出会った。


赤司が言うには、彼は公家の出で身分も申し分ない…世継ぎの種候補らしい。


確かに彼の佇まいには気品と風格が備わっていて、どこか耽美な美が漂っていた。


私はこの時、彼の容姿を純粋に心から綺麗だと思い、思わず見惚れてしまっていた。



(何だか知的で…思慮深そうな人だなぁ)



…しかし、その印象は彼がその後発した言葉によって脆(もろ)くも崩れ去る。



それは緑間との初対面を済ませた後に、緑間がすぐに私のところへ訪ねてきた時の事だ。


彼は私の部屋に入って口を開くなり、“オレはお前のような尻軽女など抱きたくはないのだよ。よって、お前がオレを寝所に呼ぼうともオレがお前を抱くことなどない”と心底嫌そうに吐き捨ててきた。


それを聞いた私は、一瞬彼に何を言われたのかが理解できず、脳内で彼の言葉を何度も何度も反芻させ……頭が理解する前に、私の身体は彼の胸ぐらを腕で掴み上げるように持ち上げた後、足払いを掛けて畳に押し倒し、彼の顔を殴っていた。


何度も拳を振り上げて、その端正な顔が歪んでいくのも気にせずに殴り続け……


しばらくそうした後、正気に返った私の目には痣だらけになった緑間の顔と、夢中で掻きむしったことで剥がれたのであろう私の爪が畳に数枚……涙で霞んだ先に見えていた。







そして、私達はすぐに事態を察して現れた赤司によって、別室へそれぞれ隔離されたのだった。






……それが二週間前の出来事。




そして今日、久しぶりにお鈴廊下でまだ完治しきれていない緑間の姿を見掛けた……と思ったら、赤司から緑間が私を望んで寝所に呼んで欲しいと願い出があったと告げられた。



(なぜ……?)



困惑する私に、赤司は有無を言わさずに、必ず緑間の元へ行くようにと念押ししてきた。


彼の言葉に逆らえない私は、恐い気持ちを押さえつけながらもなんとか頷いて寝所まで来たのだ。



そして、話は冒頭に至る。



私は再びフツフツと二週間前に感じた怒りが沸き上がってくるのを感じながら、前と同じように緑間に掴みかかろうとした。




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