最近、上様に茶飲み友達が出来ました。
「紫原」
「あ。鞘ちん。遅かったね?御仕事長引いたの?」
私は政を終えると、老中紫原守敦と待ち合わせをした庭へと向かった。
そこには既に大奥の縁側に座って和菓子を食べている紫原の姿があった。
私は紫原に、遅れてすまんな。今終わったところだったのだと、言うと彼の隣りに座る。
控えていた部屋子に、私の分のお茶を用意するように告げるとその場から立ち退かせた。
そして、私は手元に抱えていた皿の覆いを取り外す。
そこには南蛮菓子のカステーラが載っていた。
これは赤司に頼んで菓子職人に作らせたもので、珍しいもの好きな紫原に喜んで貰おうと思い用意したものだ。
(代償は高いが……紫原の喜ぶ顔が見れると思えば堪えられる)
彼も私の手元にある菓子に気付くと、首を軽く傾げて横から覗きこんできた。
「鞘ちん、それなーに?」
「ふふっ、これはカステーラと言う南蛮の菓子だ。今日のために特別に取り寄せたのだぞ?」
「へー」
紫原の興味津々な様子に私は密かに満足しながら、彼にカステーラを取り分けて手渡そうとした。
しかし、彼は私がカステーラを差し出しても受け取ろうとはせず、私の顔をジ〜ッと見つめるだけ。
どうしたのかと思い、紫原?と声を掛けると、彼はコテンと首を傾けて茶目っ気な
笑みを浮かべる。
「鞘ちんが食べさせてくれるんじゃないの?」
「え?…ハ、ハイッ!?」
「鞘ちんが俺のために用意してくれたんでしょ?」
「う、うむ…」
「なら……あーん」
巨体な筈の紫原が、小動物のように可愛く見えてしまう。
胸が激しくドキドキするのが止められない。
私は意を決してカステーラを手に取ると、口を開けて目を軽く閉じている紫原の顔にカステーラを運ぶ。
(っ〜〜〜!!む、無理だ――!!)
しかし、後残り僅かで口に届きそうなカステーラの行方を、紫原の端整な顔を直視出来ないという理由で見届けることが出来ず、最後は咄嗟に目を瞑って腕を前に押し出した。
「……鞘ちん?」
「は、はい?〜〜っ!?す、すまん紫原!!」
不満げな彼の声が聞こえて目を開けると、カステーラは彼の口ではなく顎下に当たっていた。
慌てて離れようとする私だったが、彼はそれを良しとせず、カステーラを掴んだままの私の腕をその大きな手で掴み引き寄せて…一口口に含んだ。
「……うん。美味しいよ」
「!!そうか!!それは良かった!!」
彼の満面の笑みを見れた鞘は、嬉しくて頬を桜色に染め上げる。
そんな鞘を見て、紫原も幸せそうに微笑んでいた。
〜そんな幸せな一時〜
「ねぇ、鞘ちん?」
「?なんだ?」
「俺ね。老中辞めて大奥に入りたいかも?」
「え」
「そしたら…鞘ちんを俺のモノにして良いんだよね?」
……その時は冗談かと思ったが、数日後に赤司に連れられてきた紫原を見て、私は彼の本気を知った。