キセキで大奥

□赤司編
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※これは少し残酷です…猫に愛ある方、無理な人は読まないで下さい






「お初にお目にかかります。鞘様」


そう言って、彼は足下に倒れている母になど目もくれず、数人の男達に取り押さえられた私へと愉しそうに笑みを向けた。

私は彼の足下で冷たくなっていく母へ、必死に手を伸ばそうとするが、男達の所為で身動きさえままならない。

そんな私に、先程母を切り殺し、挨拶をしてきた青年が近付いてくる。

そして、おもむろに私の顎を持ち上げると、母を殺したのと同じ小刀で私の髪を肩から下の部分全てを切り落としてしまった。

母が誉めてくれた、自慢の髪が……

涙で霞んだ足下に、母の血のついた鞘の髪が無惨に散らばっていく。


「……君にはこれから上様として生きて貰う」


そう言って、青年は私に優しく…残酷な美しい微笑みを向けた。


……これが、鞘と春日局であった赤司征十郎との初めての出会いだった。










「……私は昔からお前のことが気に食わないのだ」


私は最近大奥に入ってきた黒子という青年から貰った仔猫を撫でながら、脇息に肘をつき溜め息を吐き出した。

しかし、赤司はそんな私のぼやきには答えず、淡々と部屋で一人碁を続けている。


「………ふん」


私も別に赤司からの応えを期待していた訳ではないので、そのまま気にせず手元の仔猫を愛でる。

ふわふわした毛並みの感触が気持ち良くて、優しく頭や顔を丹念に撫でたり揉みほぐしてあげると、幸せそうに目を細めてゴロゴロと膝の上で甘えてくる。

あぁ!!もう可愛いのぅ!!めんこいのぅ!!

最近は、赤司の嫌がらせか!?と疑うほどの政の量と忙しさで全然構えていなかったが、今日はやっと遊べる時間が作れた。

この仔猫…若紫のおかげで政の処理能力が上がったのだろう。

私は得意気に執務室を後にすると、廊下を歩いていた若紫を連れて自室へ戻ってきたのだが…そこには既に赤司が居て、一人碁を打っていた。

赤司が私の部屋に居るなど初めてのことだ。

しかし、私が赤司に何度か話し掛けてみても彼は何も答えず、黙々と碁を打ち続ける……仕方ないので私も若紫と遊ぶことにした。

白くて小さくて、ニャッと鳴く度に頬擦りしたくてウズウズする。

だか、あまりしつこくすると若紫は嫌がって逃げてしまうので我慢する。

…のだが

(……?今日は以前にも増して甘えん坊じゃないか?)









……パチン


やけに碁石の音が大きく響いた気がして、鞘は若紫から音を発てた赤司へと顔を向けた。

彼は何が面白いのか…腕を組んだまま顔を半ば俯かせ、肩を震わせて声を発てずに笑っていた。


(………笑う?あの赤司が?)


彼が心底愉しそうに笑う姿など初めて見た鞘は、手元でいまだに甘えてくる若紫のことさえも忘れて赤司の姿を凝視する。

赤司の方も笑いを堪えながら…愉快と言うよりも嘲りの強い笑みを私へと向けた。


「上様…君は本当に……昔と何も変わらないね?」
「な、何の話だ?」
「君が昔も今も僕を嫌いなのが変わらないように、君も昔と今も変わらず…愚かだと言ったんだよ」


そう断言した赤司は、その場から立ち上がると私へと近づいてきた。

いつもと変わらない、見馴れた赤司の動作…それなのに何故か、それが空恐ろしいと感じる。

既視感を覚える。

私はいつ、この場面を見たことがあるのだろう?

いつ……赤司のこの表情を残酷だと感じただろう?


「鞘……愚かな僕の上様。君に良いことを教えてあげるよ」

そう言って、赤司は私の前に膝立ちになると、幼い子供に教えこむように私の肩を掴んで顔を見合わせた。











その仔猫は君の可愛い若紫なんかじゃない…



僕が見つけて連れてきた別の猫……



そして本物は、君の腹の中……






ねぇ…鞘?駄目じゃないか…





君は僕だけの上様だろう?


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