聖戦を彩る軌跡

□第一話 始まりの鐘
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≪百年戦争について≫


この戦争はフランス王シャルル4世の死をきっかけに、当時親戚同士であったフランス王家とイギリス王家の争いから始まった。


フランス王家のしきたりでは、王になれるものは男子のみと決められており、シャルル4世には男子の跡継ぎがいなかっため、変わりに親戚のヴァロワ王家出身のフィリップ6世が王座につくことに決まる。


しかし、そのことに対して、イギリス王であったエドワード3世は自身がシャルル4世の甥(おい)にあたるため、フランス王を継ぐ権利がある筈と主張した。



何故、イギリス王であった彼が更にフランス王の座をも狙ったか…



それは、フランスとイギリスの間で根深く続く領土問題の存在があったからである。


それというのも、エドワード3世がイギリス王となる遥か昔、イギリスは今以上の広大な領地と豊かな資源を有する大国であった。


しかし、その広大な土地はフランスとの度重なる争いによって徐々に奪われていき、イギリスの領土はエドワード3世が継いだ頃には随分と縮小してしまっている有様で、お粗末にも昔の栄華は見受けられない。


そこでエドワード3世は、この機会を好機ととらえ、元イギリス領土の奪還……あわよくば、フランス全土さえも手に入れようと目論見たのである。


しかし、エドワード3世のフランス王への野心に気付いたフィリップ6世は、フランスにあったイギリスの領土を更に没収することで彼の野心を牽制しようとした。


だが、その事が逆にエドワード3世の怒りに火をつけてしまい、怒り狂ったエドワード3世は1337年に「自分こそがフランス王に相応しい!」と名乗り出ることで、フィリップ6世に宣戦布告を表明する。



これが、のちに“百年戦争”と呼ばれる悪夢の戦いの幕開けの一部始終である。



…しかし、これはあくまでも“表”に広まった話でしかない。



この百年戦争の“裏”側には、この戦争の本当のきっかけや隠された真実が存在していた。


ただ、この時にその真実を知る人の子は誰一人として存在せず、百年戦争の渦中に巻き込まれた人々は、影から操っている彼らの存在に気付かぬまま、決して終わる事の無い戦いの中命を落としていった……





この物語は、その不毛な戦争の終息と平和を望んで立ち上がった一人の少女の話である。
























「…最近、何をしても面白くないんスよねぇ」



談話室の真紅のソファに身を沈めながら、黄瀬は心底つまらなさそうな様子で手元に引き寄せたカップから紅茶を啜(すす)る。


そのだらしない黄瀬の態度に、同じくソファに腰掛けていた緑間が咎めるように視線を向けるが、黄瀬は特に気にする事なく手近に置いてあった菓子を摘(つま)んで口へ運んだ。


彼の形の良い口からクッキーを租借するサクサクとした音が小さく室内に響き始めると、同じ室内の幅広いソファに仰向けで寝転んでいた青峰が閉じていた瞳を開ける。


そして、黄瀬から発生する音の正体に気付くと、不機嫌そうに眉を顰(しか)めた。



「…おい、黄瀬」



寝起きでドスのきいた低い声の青峰からの呼びかけに、黄瀬は半ば伏せていた顔を上げて嬉しそうに応える。



「あ!青峰っち、おは…」



“ようっス”と言い掛けた黄瀬の額に、青峰の空のティーカップが炸裂して砕けた。



「ブッ!?」



ゴツリと額に当たった陶器の衝撃で、黄瀬の頭部は軽く後方へ仰け反る。



「…それ以上喋るな。燃やすぞ?」

「〜〜っ!?なんで!?」



青峰からの忠告に、黄瀬は軽くショックを受けて叫んで反論しかけたが、今度は閃光が放たれて黄瀬の頬を掠める。



「もう一度だけ言う・・・黙ってろ」

「……」



理不尽だと思いながらも、黄瀬は珍しくそれ以上の反論をすることなく口を噤(つぐ)んだ。


あの暴君の青峰でさえも、自分と同様に何の用事も、目新しいものもないこの状態を持て余し、不機嫌になっているのだと理解したから・・・


(……でも)



だからといって、黙って青峰を寝させてしまうのは癪(しゃく)だし、つまらなかった。



黄瀬は、いつもならウザがられるまで粘り強く絡む自身の態度を自重して、口を噤んで目を閉じる。


すると、読書をしていた緑間が珍しく静かになった室内に驚いて、顔を上げるとポツリと言葉を溢した。



「?……珍しく」



“静かだな”と言い掛けた緑間の言葉が終わる前に、先ほど黄瀬に放たれた青峰の閃光が緑間に襲い掛かる。



ジッ!!


ボシュッ!!!


「っ!?」



適当に放たれた青峰の閃光は、緑間が持っていた貴重な本を貫通し、一瞬で燃やしつくすと本と共に緑間の手の中から消え失せた。



「あ、青峰ぇえええ!?」



読みかけだった本の消失に緑間が半ば悲鳴のような声を上げて立ち上がると、まどろみかけていた青峰も耳を塞いで立ち上がる。



「うっせぇー!黙れっつってんだろーが!?」

「寝るなら別の場所に移れ!此処は共同の談話室であって、貴様の寝室ではないのだよ!」

「ぁあ゛!?知るか!俺は此処で寝てぇから寝てんだよ!お前の方がどっか行けば良いだろうが?」

「召集された時間が近いのに、何故俺が集合場所から離れる必要があるのだよ!?貴様が消えろ!青峰!」



バチバチと視線を交わして睨み合う緑間と青峰。



「……」



そんな二人の喧嘩をわざと誘発させた黄瀬は、つまらなさそうに二人を観察しながら再び紅茶に口を付けた。


今度も遠慮なく音を立てながら菓子を租借するが、青峰は緑間と争っている最中のため黄瀬に文句を言う事も、注意することもない。



(あ〜ぁ……退屈だなぁ…)



特に変わりばえのない二人の喧嘩を観戦しながら、しばらくぼんやり過ごしていると、唐突にソファの後ろから声を掛けられた。



「…青峰君と緑間君は何を争ってるんですか?」

「!?黒子っち!」



いつの間にか室内に入って来ていた黒子に気付いた黄瀬は、ゴールドイエローの瞳をキラキラと輝かせながら勢い良くソファから身体をお越すと、背後の黒子と向き合う。



「久しぶりっスね。一人で来たんスか?」

「いえ、途中で紫原君達と合流しました」

「やっほー、黄瀬ちん」



黒子の言葉通り室内にいた紫原の姿に黄瀬は少しだけ口を尖らせると、不満げな様子で黒子の服の裾を摘んだ。



「酷いっスよ、黒子っち…俺が誘いに行っても断るのに…」

「すみません…黄瀬君と来るのはとても面倒臭い事になりそうなので、今後も一緒に来る事にはならないと思いますが、気にしないでください」



言葉使いは丁寧でも、黄瀬の目を見ることなく淡々と話しをして手を軽く振り払う黒子。


そんな黒子の態度に黄瀬が傷つきつつも、めげずに言い寄ろうとした時、最後の一人が談話室へと到着した。



「…全員揃ったようだね」



赤司が室内の喧騒を一瞥すると、他の六公の動きがピタリと止まる。


原始的な掴み合いの喧嘩に発展しかけた血気盛んな青峰と緑間。


黒子に構って欲しいと言い寄る黄瀬を完全に拒絶しようとする黒子。


そして、その二組に全く関心を寄せずに手持ちの菓子を食べている紫原。


そんな彼らを見渡した赤司は、談話室の自身の席へ座ると、早速召集した本題に入るために口を開いた。



「…退屈凌ぎの趣向を考えた。ただし、参加するかしないかは各人の自由。また、特に暇を持て余していないようであるなら、帰ってもらっても構わない」



どうする?



そういって肘掛のソファに片肘をつき、悠然と微笑む赤司。


その問いかけに、その場の誰一人として断りの声をあげる者はいなかった。





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