06/22の日記

21:26
帝光バスケ部合宿一日目I
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“無理だろう…、はっきり言って、勝ち目なし”


そんな短歌が、一軍メンバーの脳内を駆け抜けていた。

そして、彼らの目の前には、黄瀬の風船を自滅に追いやり、緑間と紫原の風船を破砕した帝光キャプテン 赤司征十郎と、その気配の薄さを利用して死闘を生き延びた黒子テツヤの一騎討ちが行われようとしていた。

二人を見守る部員達の手には、ノルマの達成されていない劇マズ失神プロテインが握られている。

それを、果敢にも一気飲みすることによって初クリアした青峰は、幽鬼のように青ざめた顔で、同じく涙目になりながらプロテインを口にしている黄瀬に声をかけた。


「なぁ?これ…テツが勝てると思うか?」
「う、ウェェ…ッ、ううう」
「うぉい!?ここで吐くなよ、黄瀬!?」
「グっぷ…ど、努力するっス」


黄瀬は青紫になった顔色で、口元を抑えながらなんとかそれだけ答えると、残りのノルマを達成するために必死に呼吸を整え始める。


「……」


他に話が出来そうな部員を探すが、皆自分のプロテインを飲み干すのに必死で、青峰と話が出来る余裕のある部員はいなかった。

むしろ、吐き気を催すような臭いと声に、これ以上の会話は不可能だと判断した青峰は、再び赤司と黒子に視線を向けた。


二人は何故か向かい合ったまま、中々動こうとしない。


「……」
「……」
「……」
「……」

(……動かないのか)


なら、此方から仕掛けよう。


そう思った赤司は、いつまでも見つめ合っていては練習に支障がきたされるので、不自然な構えで風船を抱え込んで動かない黒子に攻撃を仕掛けようとしたが……その前に、黒子の方が赤司に声をかけてきた。


「…赤司くん」
「…なんだい、テツヤ?」
「…僕はあのプロテインを飲んだら確実にグロッキーになって吐くと思います」
「…そうだね。その顔色からして、君がアレを飲めば吐くだろうことは明らかだ」
「はい……むしろ……最早、今……皆の吐きそうな声だけで吐きそうです……ウプッ」


そう言うと、黒子は風船から両手を離し、吐き気を堪えるために口に手を当ててうずくまってしまった。

黒子の水色の風船が、他の風船の残骸の上をポフポフと転がっていき、赤司の足下にまとわりついて止まる。

呆気なく上がった勝者の軍配に、赤司はため息を溢すと、その風船から視線を外し、死屍累々にうずくまる一軍メンバーを見渡した。


そして、唯一動けそうな青峰に声をかける。


「……青峰、黒子にバケツを用意してやってくれ」






〜監督の地獄の体力錬成その@〜



赤司は具合の悪い黒子のプロテインと自分のプロテインを密かに交換すると、その独特の味に僅かに眉を潜めながら、無言で一気に飲み干した。

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18:22
帝光バスケ部合宿一日目H
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最初に脱落したのは、意外な人物だった。


監督のホイッスルと同時に、パンッ!と風船の割れる音がしたため、その場にいる全員が驚いてその音を発した人物に視線を向ける。


「あ〜…ヤベ、力入れすぎたか?」


青峰は、手の中にある風船の残骸を見つめながらポリポリと鼻を掻いた。


「ハハハッ、お前が最初に脱落するとはな…相変わらず予想を裏切らん奴だ」


そう言いながら、監督は持参したクーラーボックスを開くと、その中からスポーツドリンクの容器を出して、青峰を手招きして呼び寄せる。

そして、ばつが悪そうな青峰に、作ったばかりのプロテインジュースを渡すと、笑顔で一気のみを促した。

青峰は本能的に嫌な予感を感じたが……監督の命令は絶対なので、恐る恐る呑み口を引き上げると口を付けて傾けた。

その瞬間、


「――ブァッ!?」


口からヘドロ色の液体を吹き出した青峰は、あまりの不味さに口を押さえてその場に膝を付いた。


「ガハッ!!ゲホ!!なんだこれ!?激マズじゃねぇか!!」
「うむ、その通り。脱落した者は全員、戦時中の脱脂粉乳の数倍はクソマズイ栄養満点プロテインを完飲してもらう。一滴も残すなよ?」


ハッハッハ!と楽しそうに笑う監督と、その隣でまだ吐き気を堪えている青峰の様子を見た一軍メンバーは、額に汗を浮かべてゴクリと息を飲みこんだ。


ただのゲームでは無いと思ってはいたが……まさか、こんな地獄の罰ゲームドリンクが待っていようとは。


一軍メンバーは、改めて鳴らされたホイッスルと同時に、気を引き締めなおすと自身の風船と命を死守すべく、死闘を繰り広げた。

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