07/27の日記

02:53
帝光バスケ部合宿一日目《夜の章D》
---------------



紫原が目を覚ますと、その視界の先には、あまり見慣れぬ天井が薄ボンヤリと映っていた。


「…………あれ?」

(……ここ、どこ?)


起きたばかりでまだ微睡(まどろ)んでいる頭に手をやり、紫原は寝ていた布団からムクリと身体を起こした。

すると、その額に乗せられていた生暖かい濡れタオルがぽとっと胸元に落ちる。

それを見た飛翔館の女将は、氷枕を作っていた手を止めて紫原に声をかけた。


「あらあら、いきなり起きて大丈夫ですかぁ?」
「…誰?」
「此処の女将をしとる佐藤言います」
「…ふーん」
「いやぁ、でも良かったねぇ?逆上せただけで済んでぇ…監督さんと他の子もすぐ良くなるってお医者さん言ってましたし」
「……監督と他の子?」


…何の事だろう?


そう思った紫原は、自分の隣にも布団が敷いてあることに気付くと、何気なく隣を見て……自分と同じように顔を赤くして寝ている監督と黒子達の姿があった。


「……あ」


そこでようやく、紫原は何故自分がここで寝ていたのかを何となく理解するに至った。







約1時間ほど前――


呼吸も辛くなるような湯気が立ち込めるサウナの中。

百戦百勝を御旗に掲げる、全国制覇を連覇中の帝光バスケ部監督とそのレギュラー六人による、サウナ我慢勝負が行われた。


しかし、負けず嫌いの頂点と言える彼らが本気MAXで挑んだ、この勝負。


その結果は、風呂場を巡回していた清掃スタッフが、逆上せ上がって倒れている彼らを発見するという…強制終了のかたちで幕が落とされた。


勝者も敗者も居ない。

泥試合ならぬドローし合い。

流石というか、馬鹿というかは人次第だ。


何故なら、その結果にいたるまでの間、サウナの中ではこの七人によって様々な戦いが繰り広げられていた。


例えば、いい年した大人による姑息な戦法

例えば、若人による力業

例えば、策士による緻密な計略

そして、それらを黙って座って眺めていたり、聞き流したりしながらもサウナの熱に独りジーッと堪え続けていた者たち。


しかし、その勝負の詳細を知るものは、紫原もしくは倒れている当人達以外、誰も居ないのだ。


漏れなく事情を知らない女将も、案の定「集団でサウナに逆上せるお客さんなんて、初めて見ましたよ?一体、何があったの?」と、ぼやきながら氷枕を取り替えていく。


「……」


幸いにも並外れた体格をしていた事で快復の早かった紫原は、女将のぼやきには答えずに、いまだに顔を赤くして寝込んでいる監督とメンバーを見回した。


(……こういう状態なんて言うんだっけ?)


何かしっくりくる言葉があったような気がするが、また頭がグラグラと揺れてきたので、紫原は思い出すことを諦めた。

そして、折角なので、このままもう一度寝直そうとしたのだが……


「……」


紫原は少し考えた後、枕元にあった自分の荷物から携帯を取り出すと、パシャ、パシャとあまり自分が使わない携帯の音を室内に響かせた。





〜珍しい集団写真(?)〜


※しっくりくる言葉→共倒れ、死屍累々、夏草や兵(強者)どもが夢の跡。

前へ|次へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ