Main

□夢幻
1ページ/1ページ


「それ、嫌いかも」

俺の煙草を指さしてお前はどこか計算したように微笑む。

「どうして?」

お前だって吸うじゃないか。
これが無きゃやっていけないのに。

「ヒョンを独り占めするじゃない」

「これが?」

紫煙を見上げると、可笑しさがこみあげてくる。

こんな物が俺を独り占めなんてできないだろう?

同じ様に紫煙を見上げ、ジヨンは一人言のように呟く。

「うらやましい」

おれだってヒョンに染みつきたい。

ゆっくりと言葉を紡ぐ唇がやけに官能的で、目のやり場に困る。

何、そんなこと羨ましがってたの。
大丈夫、心配いらないって。

「近くに居すぎるから分からないんだ」

「何が?」

「お前の存在が俺にとってどれだけ大事かってこと」

煙草を灰皿に押し付ける。
今のが最後の一本だった。

「じゃあ離れれば分かる?」

試してみる?と言わんばかりのにやけた顔。

「ダメ」

ジヨンの後ろから細い首に手をまわし、額を背中に当て、もたれかかる。
ジヨンは自分の手を俺の手にそっと重ねてくる。

「何で?」

「ジヨンが離れたら死ぬ」

「自殺しちゃうの?」

「弱って死ぬ」

だって、お前がいないのにそんな気力が残ってるわけないだろう。

きっと這いずりまわってでもお前を探しきった後だろうし。

「俺も一緒」

くるりとジヨンが向き直り、ふっと微笑む。

「俺もヒョンが居なくなったら死ぬよ」

綺麗に微笑むから、お前が今すぐにでも消えて居なくなってしまいそうで、怖くなった。

お前の頬に両手を添えると、同じ様に両頬を挟まれた。

「ずっと愛してる」

「その言葉、忘れないでね」

お前がそっと目を閉じたから、つられるようにキスをした。

共に夢を見よう、いつまでも。

『夢幻』
(きっと儚い永遠)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ