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□花葬
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※無葬の番外編)

そう、あなたは覚えてないんです。

あの日酔ったあなたは俺の部屋に訪れ、”たまにはかまえよ”と笑った。

その時はまだ、珍しいな、なんて呑気なことを思ってた。

「珍しいですね」

「何が?」

「ヒョンがこんな時間に俺のとこに来ることが、ですよ」

「そうかも」

ちょっと楽しそうに笑うヒョンの声を聞いて不思議に思う。

「タプヒョン、今ジヨニヒョンと一緒にいるはずなんじゃなかった?」

確か少し前にジヨニヒョンがタプヒョンのとこ行ってくるとスキップしながら歩いていくのを見た。

「さっきまでね」

「あ、そうだったんですか」

「・・・うん、さっきまで」

うっすらとタプヒョンの目に涙が張る。
え、こんな展開予想外なんだけど?

「何かあったんですか?」

「聞いてもしょうがないよ」

「でも、黙っていてもしょうがないでしょ?」

「言わないよ」

涙を目にいっぱいためたまま掠れ声で呟くあなたはそれはそれは痛々しかったんですよ。

こっちまで悲しくなるくらいに。

「じゃあ言わなくていいから、目を閉じてください」

「?」

「ほら早く」

目を閉じるとヒョンの目から涙が溢れた。

「・・・ヒョン、やっと泣けましたね」

軽く微笑むとヒョンは意味が分からないという顔をする。

「え」

「泣いちゃいましたね」

「違っ!」

ああまた涙があふれてますよ。
酔っ払いは泣きやすいんですね

「でも、それは俺が"目を閉じてください"って言ったからです。」

「?」

「ヒョンが泣いちゃったのは俺のせいですね。」

「・・・てーそーなぁー」

言葉の意味を理解したヒョンがうわああああんと抱きついてくる。

「俺が、泣いてんのは、テソナの、せい?」

「そうです、俺のせいです」

「あいつの、っ、ジヨナのっ、せいじゃ、なく、て?」

「そうです、だから、たくさん泣いて下さい」

「っあああああ、」

年上ってことも気にせず、しゃくりあげるヒョンがどうしようもなく不憫だった。

しばらく、ヒョンの気が済むまで泣かせてあげた。

やっと嗚咽も収まってきたころ、ヒョンが俺を見つめる。

「ヒョン?」

「テソナ、これ、あげる」

ポケットから出された銀色のライター。

「え、これって確か」

ジヨニヒョンからの、と言おうとしたらヒョンに口を押さえられた。

「あげる」

有無を言わずに受け取れという意味なんだろう

「・・・預っときますね」

「返しても俺は受け取らないからな」

強情な酔っ払いは引き下がらないっていうのはよく知ってる。

「部屋まで送ります」

「別にいい」

「ダメです。だってタッピョンふらふらじゃないですか」

足元がおぼつかないヒョンに肩を貸し、部屋まで歩いた。

ヒョンの部屋は酒瓶が散乱していて、いつもと全く違って驚いた。

この人はこんな飲んでいたのか

「テソナ、眠い」

「はいはい」

ベッドまで運びこみ、布団をかける。
俺がいなかったらどうなっていただろうか。
その辺に倒れてたかも。

「てそな・・・」

「はい」

うとうとした声が俺を呼ぶ。

「あり、がと」

それだけ言うと寝息をたてて、眠ってしまったようだ。

「どういたしまして」

綺麗な寝顔を見つめる。
明日になればきっと忘れてしまっているだろう。
けど、俺が覚えているからそれでいいや。

「おやすみなさい、スンヒョン」

そうして、貴方が眠る部屋を後にしたんです。

『花葬』
(とっても美しい人)

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