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「神様なんて居るんですかね」

スンリが唐突に問うから、コーヒーに角砂糖をいくつ入れるか悩んでいた俺は、角砂糖とにらめっこしていた顔を上げた。
奇妙な質問に戸惑う俺をよそに、スンリはもぐもぐとパンを頬ばる。
視線は俺にではなく、自分のほおばるパンに向いている。

俺は少し考えてから答える。

「知らない」

そんなこと俺に聞かないでほしい。
俺が知ってるわけないのに。
居ても居なくても、どうせ結局俺達には関係ない。
同じ様に毎日は過ぎていくだろう。

コーヒーを一口飲んだ。
少し砂糖が足りなかったかもしれない、と思う。

「居てほしいの?」

居れば何とかしてって縋るんだろうか。
そんな無様な姿をさらすんだろうか。

ケーキでも買ってくれば良かった。

「ん…別に。ただ、居たらヒョン達の仲を切り裂いて下さいってお願いします。」

口に入ったパンを嚥下してから、明日の夕食でも考えるような気力の無さでスンリは言う。
何となく俺もぎゃあぎゃあ騒ぐ気分ではなかったのでぼーっとスンリを見ていると、スンリはジュース取ってきますと言ってなんでも無いような顔をして席を立った。

空になった席と冷たいコーヒーに交互に視線に移しながら考える。

変に気の強い末っ子は何が気に食わないのだろう。

きっと俺には想像もつかないような、まどろっこしいことでも考えてるんだろう。
俺ももう少し前ならそういうこと考えてたかも。

一向に減らないコーヒーとは対照的に、思考は色々なところに飛び火する。
なかなかスンリは戻ってこない。

人でも殺しに行ったのかな。
そんなわけないってことにすら脳みそが回る。

オレンジ色の液体の入った硝子のコップを持ってスンリが戻ってきた。

「遅かったね」

「そうですか?」

「人でも殺してるのかと思った」

「なんですか、それ」

「分かんない」

自分でも支離滅裂で意味不明だと思う。
コップの半分ほどの甘酸っぱい液体をスンリは飲みほしていく。
自分の手にある黒い苦い液体が重く感じた。

「飲まないんですか?全然減ってないですよ」

「美味しくない」

「ヒョンにしては珍しいですね。」


「…うーん」

肯定とも否定ともつかない返事をする。

ちょいちょいと手招きすると、不思議そうな顔でこちらに身体を寄せるスンリ。
そのまま後頭部を抑え唇を合わせる。
油断して緩んでいた唇を割って舌を絡ませる。

甘いよりちょっと酸っぱいが強い。

ああ、そうだ。

少しいじわるしてやろうとスンリの耳を両手で塞ぐ。
きっといつも以上に水音が頭に響くだろう。

「…っ、は、何するんですか」

誰かに見られたら…と少々立腹気味のスンリ。

「苦かった?」

「……甘くは無かったです」

「なら良かった」

「どうして?」

「共有させてあげようと思って」

「俺は甘い方が好きです」

スンリはニヤッと笑ってそう言った。

「そういうのはテソンにでも頼めば」

「そうですね」

急に出たテソンの名前に少し驚いたような表情を作って答えるスンリ。
そう言えば今まで二人きりの時に名前は出したことは無かった気がする。
すごく今更だ。

「ジヨンヒョンには苦い思いなんてさせないんでしょ?」

仕返しと言わんばかりにジヨンの名前を出されても、俺は動揺なんかしない。
だって割り切ってるから。

「うん、とびきり優しくしてる。」

「優しくしなきゃ逃げられますもんね」

ちょっと小馬鹿にしたようにケラケラ笑いながらスンリは残りのジュースを飲みほした。
何がそんなに可笑しいのか。

なんとなく飽きて席を立つ。

「あれ、タッピョンまだコーヒー残ってますよ」

「いらない」

「へぇ、そうですか」

ふーん、と興味なさげに一瞥してスンリも席を立つ。
テーブルに空のコップを置いたままだ。

「スンリこそ片づけなくていいの」

「いいんですよ」

テーブルの上にちょこんとおかれた二つのコップ。
まあどうでもいいか。

「ヒョン、早く行きましょ」

「ああ、うん」

なんだか変な気分。

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(ろくでもない者同士)

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