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□酷薄
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俺ね、あなたが思ってるほど誠実な人間じゃないんですよ。
お前の自嘲気味な呟きを聞き流したのは一体いつ頃のことだったかな。
ずうっと前から、お前はいろんな人と遊んでいたのは知ってる。男も女も関係なく、誰彼かまわず楽しくやってたんだろ?
所詮俺もその大勢のうちの一人だろう
いいよ、別に。俺が一番だって一緒にいる時だけでも思わせてくれれば。そう言い聞かせてきた、ずっと。
そのくせ、期待させないでくれと流した涙は数えきれない。
でも、いつも通りの情事の後、お前はいきなり切り出した。
「ヒョン」
「何」
布団に突っ伏したまま動かないテソン。
「ヒョン、好きです。」
「いきなりどうしたの」
「好きです、ごめんなさい、愛してます」
「、テソナ」
声が震える。
ずっと、ずっと心のどこかで葛藤し続けてきた願望に目を向けたく無かった。
「ヒョンは、俺のこと、嫌いですか」
テソンは上体を起こし、俺の腕を引く。
テソンと目を合わせると、テソンの色んなごちゃ混ぜになった感情が一気に流れ込んできた気がして、目眩がした。
「俺みたいな安っぽい人間は嫌いですか」
「俺だって、お前のことが好きだ」
「じゃあ、」
テソンのことばを遮り続ける。
「ただ、両想いを喜べるだけのモノじゃないって知ってるだろ?」
ひとたび目から零れ落ちる雫をとめるのは無謀でしかない。後から後からひっきりなしにあふれてくる涙はとどまるところを知らない
「お前のこれからの幸せを奪いたくない。」
「俺だって、同じこと考えて、ヒョンに想いを伝える勇気がなかったんです。でも、あなたとの関係も切る勇気も無くて、もう、アナタの事で頭が一杯で、苦しくて、死にそうで、」
伝えたくて
とことばを詰まらせながら、ゆっくり紡ぐテソンはとても悲しげだった。
「俺だって、お前のことが好きで、大事で大事だからどうしても言えなかった、言わなかった。どうして今そんなこと言うんだよ。この関係でいようって言ってくれれば、」
込み上げてくるものに邪魔されて、続きは声にならなかった。
言ってくれれば、俺はそれで幸せだったのに。
テソナは俺の頬に片手を滑らせ、ゆっくりと包み込み懇願する。
「ヒョン、俺達誰に迷惑をかけるわけじゃないんです。二人で生きましょうよ。お互いが重荷になるようでも、行けるところまで行って心中でもなんでもしましょう?」
俺を抱き寄せ、囁くテソンはまるで迷子の子供の様で、この腕を振り払えば消えてしまうんじゃないかと思った。
「テソナ、」
そんなに必死にしがみつかなくっても、俺は何処へも行かないよ。
『酷薄』
(ごめん、俺は自覚してたよりずっと自己中心的だったみたいだ。
お前のために、受け取らないって決めたのに。)