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□盲目
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ああ、とうとう見てしまった
何を?
なんてそんなヒドイこと言わないで。
俺だって現実を飲み込むので精一杯。
むしろそれすらキャパオーバーなんだってば。
もうしょうがないんだ、そうだよ、しょうがない。
この目で見て、この耳で聞いてしまったんだから。
俺がいくら焦がれたって、ときめいていたって、俺の想いが届いたって届かなくたって、
彼には全く関係無いんだって知ってただろう?
でも見たくなかった。
俺じゃない誰かに、
優しく腕を回すのも、
『愛してる』って頬笑みながら囁くのも。
心はズキズキ痛むのに、頭はやけに冷静だった。
『あ、そっか。そうなんだ。』
すうっと頭のどこかは冷え切っていて、真っ白になることも無く、見つからない様に逃げなくては、と指令を出した。
自分の部屋に駆けこんで、後ろ手で扉を閉めた。
真夜中だったから、真っ暗だったけど、電気も付けないで一人でベッドの上で膝を抱えてぼうっと暗闇を見つめてた。
暗闇を見つめているうちに今までのことが浮かんできた。
一番最初に浮かんできたのは、タッピョンのことが好きって気付いた時のこと。
ヒョンがメイクしているときに、鏡越しに目が合って。
その時にヒョンの目がちょっと微笑んだときに、ドキドキが止まらなくて。
『信じらんない!』って思ったんだったっけ。
嫉妬もいっぱいした。
他のメンバーと喋ってるのを見るだけでモヤモヤしちゃうから、大変だった。
女の人なんてもっての他で、そんなことあるはずないって知ってるのに、女性スタッフとヒョンが話してる時は気が気じゃなかった。
小さなことで一喜一憂する自分がちょっと愛おしかった。
きっと叶わないって知ってても、好きでいることが健気に感じられた。
ずーっと、"もしかしたら"っていうのも捨てられなかった。
捨てたくなかった。
何度捨てようと思っても、捨てられなかった。
一気にそこまで考えた。
涙が止まらない。
自分が愚かに思えたから。
もう盲目では無いから。
ああ、くそ
なんでこんなにすきなんだ
悔しい
悔しい
悲鳴を上げて心が叫ぶ
あんな女よりか、ずっと俺の方がいいに決まってるのに。
あんな女のどこがいいんだ。
冷静な脳みそが返事をする
分かってるくせに。
アイツが女で俺が男だからだよ。
服の袖で拭ってみたけどあとからあとから溢れてくるから追いつかない。
苦しい
痛い
明日どんな顔して会えばいい?
虚しさがこみあげてくるだろうから顔なんて見れない。
ここまできてふと思い出す。
そういえば、女の顔を見ていない。
華奢な背中と綺麗な黒髪。
覚えているのはそれだけ。
本当に、それだけ?
ううん。
それと、
タッピョンの幸せそうな顔
また涙があふれた。
『盲目』
(なれっこなかった)