ペルソナ零 The・Spirits
□4.
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「あれ…何ッ……」
自分の目の前の光景。
今まで居なかったのに彼が何かを唱えると燃え尽きたかのように姿を現し、そして消えていった…
あれが…シャドウ…
樹はシャドウが完全に姿を消すとこちら側に体を向け歩いてくる。
私とはかなり距離が空いているから彼の表情までは見えないけど…
フラフラしているのは分かる。
彼の肩が左右にゆっくり揺れていて。
危ないのではないかと木の陰から自分も出ていこうとした。
立ち上がり木を離れようとした。
すると
「キョウハ…チガウ…ウフフ…ウフフ…」
「(何…!?) 」
胸のなかで静かにあの声がふと甦る。
心に直接語りかけてくるかのように。
しかし、彼は何もないかのように歩いてくる。
さらに声はエスカレートしてくる。
「アラアラ…キガツカナイ…ウフフ…ウフフ……」
「(気がつかない…!?)」
彼のことなのか…
あの笑い声が…
…耳の奥に鳴り響いてくる
思わず耳を両手で押さえてしまう
止めて…
「ウフフ…ウフフウフフウフフ…」
「(彼が危ないッ!!)」
「かみ…しろさんッ!!」
頭の中であの声がずっと流れる…
ウフフウフフウフフウフフウフフウフフウフフウフフウフフウフフウフフウフフ
頭の中の騒音で自分の声が聴こえなかった。
危ない…危ないのに
「ウフフウフフウフフウフフ…クッテヤル…ヒャッヒャヒャヒャッッッ!!!!」
私が気を失いかけてその場に倒れこんでしまったのに気がついて樹は大急ぎで走ってくるが、
彼の後ろには…
「樹ッッッ!!」
走ってくる樹は背後にいたシャドウに斬られる。
背後にいた大型のシャドウは黒く血塗られたマントにそこから覗く目玉は樹の背中を見て…
鎌を持っていた。
大きな鎖がさっきの鈴とは違う重々しい音を奏でる。
振りかざす鎌は樹の背中を斬り裂いた。
倒れた樹はブレザーやシャツが紅く染まりグラウンドにはそれ染み込んでゆく
しかし…
彼は…
「くはッッッ!!」
と大量の血を口から吐きだす。
「いやぁぁぁああッッッ!!!!」
*
「人は何かをきっかけに強くなる…そうお父様は言ってたな…」
神代学園の屋上付近。
グラウンドでは大型のシャドウが暴れて、
血塗れの光景が瞳に写る。
「あれは…ただの大型のシャドウなんかじゃない…」
樹が倒れ、大型のシャドウはシャリンシャリンと体に巻いている鎖を鳴らす。
方向転換。
次は叫んでいる本人、凛を狙ってシャドウはゆらりゆらりと1歩ずつ近づいていく。
「正真正銘の…」
…様子がおかしい。
シャドウは紛れもなく目の前の少女を狙っているはず。
なのに、
彼女はそこから逃げようとしない。
むしろ、シャドウの方へ向かっている。
「何故…」
ある少年は次の瞬間、
驚くべき光景を目の当たりにした。
*
無意識の中でそれは起きる。
自分に向かってシャドウという怪物が迫ってくる。それはきっと小さな子供でも分かること。
木の陰から出てきてシャドウの声の圧力で気を失いかけたが…
ここから逃げようとは思わずその場に倒れている自分の体をどうにか起こした。
木に手をかけ、1歩ずつこちらに前進してくるシャドウの方へ自分も足を動かす。
彼を助けたい…
「ヒャッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」
シャドウの足よりこちらの足の方が速かったらしく…
樹から数メートルというところで血塗られたマントに当たる。
数メートル先の樹は意識がないのかそのまま倒れている。
しかし、グラウンドへ流れていく血の量は今も変わらない。
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」
獲物が自ら自分の前に来てくれるのはどこの生命体だって好都合と考えるように、
大型のシャドウは私にあの鎌を構える。
「クッテヤル…クッテヤル…ヒャヒャヒャヒャッ!!」
私はもう自分の意識が途絶えているのを知っていた。
それでも…
(我ハ汝、汝ハ我)
頭の中の暗闇で一筋の赤い光が見える…
(契約ヲ…我ト契約セヨ)
なんで…?
(汝ハ能力ヲ欲スルカ?)
助けたい…彼を助けたい…
(ナラバ契約セヨ…)
どうやって
(証ヲ…共二行ク運命ヲ…)
光は強く輝いて、
一つのカードが目の前に現れる。
(我ガ名ハ、ヤヨイ…汝ハ我…我ハ汝…)
そのカードはたた強く輝いて、
私の前から姿を消す。
(今コソ…発セヨッ…)
目を開ければ大型のシャドウが鎌を振りかざす瞬間だった。
赤い光が示すカード。
その属性は[愚者]
「…ヤヨイッ!!」
光は大型のシャドウをも飲み込むと
「ヤメロ…ヤメロォォオオオッッ!!!!!!」
後方に足を戻した。
鎌はもっと大きくなり、私の方へと降り下ろす。
しかし、
ガンッ!!
渋紫の着物を優雅に舞い、
目には包帯を何枚も結んでいる。
長い栗色の髪をひとつに束ね、
鎌を振り下ろす大型のシャドウの攻撃を大きな薙刀で止めた。
鎌をしまい、2丁拳銃を取り出すシャドウ。
しかしシャドウの攻撃を一切受けず全てをかわすと
(能力ヲ…解放セヨ)
「ジオッッッ!!!!」
宙を舞うヤヨイは薙刀を天に向け、
そこから幾万の電気を薙刀に帯びる。
その薙刀を大型のシャドウに向けてひと振りするとシャドウの体には、
ゴォォオオオッ!!
という音と共に電気の柱が包み込む。
か気がつけば大型のシャドウは居なくなっていた。
「あ…」
ヤヨイは役目を果たしたと赤い光と共に消え去った。
樹の方へ向かおうとするが…
「は…やく…行かな……きゃ」
そこでブツリッと体の何かが切れたみたいに自分もそこから倒れてしまった。
「…あのお父様もほら吹かないんだな」
屋上付近にいる少年は巨大な何かに抱えられどこかへと消えていく。