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□果実は嫌いです
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雨の中ただひたすらに走って、あとも振り返らず。
傷だらけになりながらも夢中で逃げだして。正直私にはつらかった。

助けが欲しかった。けれど本当にこれでよかったのか。

「大丈夫だったかい?」

私を家の中へ匿ってくれて、笑顔でそう聞いてくるこの人はきっと、私の事が嫌いなんだろうって思う。

「…大丈夫、ありがとう」

それはよかった、とさらに微笑む。
助けてくれたのはありがたい。でもその張り付けたような笑みを見せるのはやめてほしい。虫唾が走る。

「君は…名前は何というんだい?」

「そっちから名乗るべきじゃないかしら」

右手で自分の髪をいじりつつ睨むようにして相手を睨む。

相手は私の前に紅茶を置いて、苦笑しつつ言った。

「これは失礼、私とした事が…。私はスプレンディドというんだ。ヒーロー、とも呼ばれているよ」

なるほどね、道理で変にマントなんか付けてたわけ。

「君の名前、教えてもらってもいいかな?」

ニコニコ笑うな。気持ち悪い。

「…ギグルスよ。助けてくれたのには感謝するわ。雨が止んだら出ていくから心配しないでよね」

言葉がとげとげしくなっているのはわざと。早く出ていきたいから。

そういうと、驚いたような顔をするヒーロー。

「おっと、そんな体じゃ動けないだろう?それに、君は行くあてが無いように見える。せめて傷が治るまでくらいはここにいなさい」

「なんでそこまでしてくれるの」

意味が分からない。
相手の意図くらい今まではすぐにわかってた。そうやって先回りして欺いて。逃げてきたんだから。

でも何故かこいつの意図が読めない。それが無性に腹立つ。

「何故って、私はヒーローだからね。困っている人を助けるのが役目だ。…ほら、寒かっただろう?紅茶が覚める前に飲んでご覧。美味しいから」

なるほどね。つまり、この救助活動はヒーローという方が無ければ実行に移さなかった、と。

紅茶を飲めですって?私に飲める訳が無いじゃない。もし私の髪の色が桃色じゃなかったら、酷い目には合っていなかったし、飲めていたでしょうね。
この髪のせいよ、全部、全部。

「アナタ何も知らないのね。町の奥で何が行われてるか、なんて。桃色の髪の女はこの町では大抵“桃娘”なんだから。桃以外飲食出来ないわ」

忌々しいものであるかのように、私は紅茶をヒーロー側へと押し返した。
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