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□たとえ見えなくても
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「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
モールさんの声で目が覚める。
一応二人ともけがはないようだ。
「あぁ、大丈夫。ここは―――?」
驚いた。周りには一面に花が咲き乱れ、蝶が舞い、木漏れ日がまるで光の帯のようにそれらを照らしていた。
脇には湖があり、ガラスのように透明な水の中を魚たちが悠々と泳いでいた。
「きれいだな・・・モールさん、今周りにはとても綺麗な景色が広がっているんだ。モールさんにも見せてやりたかったよ・・・。」
そう言うとモールさんは答えた。
「たとえ、その綺麗な景色が見えなくても、私には花の香りが分かります。草の柔らかい感触、風が頬をなでるのが分かります。そして水の流れる音が聞こえます。私は―――」
「私はそれだけで十分なのです」
モールさんはそう言って俺に笑顔を向けた。
「そっか、だから俺の事も、森に着いた事も判ったんだな」
そう呟いて目を閉じてみる。
「モールさん、目が見えないって言うのも悪くは無いのかもしれないな」
言ってみると彼は
「そうですね」
優しく返事をしたのだった。
【END】