HTF

□たとえ見えなくても
2ページ/3ページ


「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」

モールさんの声で目が覚める。
一応二人ともけがはないようだ。

「あぁ、大丈夫。ここは―――?」

驚いた。周りには一面に花が咲き乱れ、蝶が舞い、木漏れ日がまるで光の帯のようにそれらを照らしていた。
脇には湖があり、ガラスのように透明な水の中を魚たちが悠々と泳いでいた。

「きれいだな・・・モールさん、今周りにはとても綺麗な景色が広がっているんだ。モールさんにも見せてやりたかったよ・・・。」

そう言うとモールさんは答えた。

「たとえ、その綺麗な景色が見えなくても、私には花の香りが分かります。草の柔らかい感触、風が頬をなでるのが分かります。そして水の流れる音が聞こえます。私は―――」

「私はそれだけで十分なのです」

モールさんはそう言って俺に笑顔を向けた。

「そっか、だから俺の事も、森に着いた事も判ったんだな」

そう呟いて目を閉じてみる。

「モールさん、目が見えないって言うのも悪くは無いのかもしれないな」

言ってみると彼は

「そうですね」

優しく返事をしたのだった。


【END】
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ