悪食少女の非日常
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どうしてこうなってしまったのだろうか。
「…***。おい、聞いているのか?」
「あぁ、すまん。大丈夫だ」
確か事の始まりは約20年前にあの化け物…ディアと言う男があの町から抜けてこの中枢都市へと来たことだった。
化け物たちは見た目が普通の人間そのものだから最初のうちは誰にもそれが化け物だと分からなかったらしい。
そうしてディアは都市に住まう女性と結婚し、娘が出来たという。それが“キル”と言ったはずだ。
しかし、その娘は親以上の化け物だった。そいつはペットとして飼われている小動物を殺して喰らっていたと言う。なんともおぞましい限りだ。
そしてそれがある時周辺にばれ、“ディアの娘は人間をも食らう”なんて噂が立ち、ディアが取り調べられて町の者だと判明した。
「なぁ、あの化け物が捕まったのは何時だったか覚えているか?」
「ん、なんだ?ディアのことか。確か2年ちょっと前だろ」
その後娘は街へと逃げて行ったという。そのころには街へと侵入できるための兵器が完成していた。
よく考えてみれば、もしそのまま娘を捨て置けばどうなっていたのだろうか。娘は実際には大干される前に逃げるために捕食行為をしたと言うが、それ以外人間が襲われたと言う話は聞いていない。
もし逃がしていれば、おぞましいほどの国の人間が死ぬことはなかったんじゃないだろうか。
「き、きたぞ!!娘だ!!!」
「ぐあああああっ、がふっ、うっ、たすけっ・・・ぐふっ」
なんなんだ!?急に声が聞こえたかと思うと、血だらけの兵士が上半身の見必死に動かして這ってきた。
脚は原形をとどめていない。
「き、きたのかよっ…」
俺は突撃銃を構えた。
「なんなんだよ、あれは…!!」
あれは本当に子供なのか。両腕は血みどろになり、顔には何の表情も見えない。目はどこを見ているのかすらわからない。
恐怖によってか、仲間が打ちまくっていた弾は全く当たらない。いや、震えていたわけではないはずだ。ちゃんと目標を確認したうえで打っている。
なのになぜ当たらない。
恐ろしくて恐ろしくて、俺には銃を構えたまま動く事が出来ず、ましてや打つことなんて到底出来なかった。
「っ!?」
「こども…連れ去った子どもはどこへ隠したですか?」
気がつけば目の前にキルは立っていた。当たりは静かで、誰ひとり動いていない。キルのいるさらに奥には炎がちらついている。
「あ、あ、あぁ…あぁっ…」
もし言って助かるなら、そうしたい。だが、恐怖によって声は全く出なかった。
「言えない、ですか…」
残念です、と。踵を返す。助かったのだろうか?
ダンッ、と、何かのはぜる音が聞こえた。
しかもすぐ近く。
俺自身が銃を打った音だった。引き金に掛けていた指が気がつかず引いてしまっていたらしい。
「貴方も私を打つんですね」
“一人くらい大丈夫だって思っていたのに”
“モウ、ドウデモイイヤ”
俺が聞いた言葉はこれだけ。
最後に見えたのは間近に見た綺麗な瞳だけだった。