小説

□本編の隙間の妄想話
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「総司、はいるぞ」

部屋の襖を開けながら土方が声をかける。

沖田は襖に背を向けるように部屋の中央に座り、刀の手入れをしていた。

先日、池田屋で刃を受け流した際に刃こぼれした刀が研ぎから返ってきたのだろう。

「土方さんの方からいらっしゃるなんて珍しいですね」

振り返る事もなく、明日は雨かな…などとおかしそうに返事をする。

土方は襖を後ろ手に閉め、その場に立ったまま徐に口を開いた。


「………あいつに嫌疑がかかっている」


誰とは言わない

沖田は手を止める様子も、振り返る様子もない。

「監察をつけた……俺もあいつが関わってるなんざ思っちゃいねぇ…
だが隊内でそうは思っちゃいねぇ連中はいる…
屯所に押しかけて来たのを見ていた隊士が大勢いる上に、あいつを庇って古高が吐いたのも事実だ。
それにおまえ…桝屋であいつにひっぱたかれてたらしいじゃねぇか…」

「あれは私自身の問題ですよ、叩かれるような事を私がしたのですから…」

沖田は苦笑を浮かべているが振り返りはしない。
手も止めない。

少しの沈黙の後、口を開いたのは土方だ。

「あるとは思えねぇが……監察からの報告に万が一の事があったら、あいつが慶喜公の預かりものだろうが何だろうが関係ねぇ…」

一呼吸置いて続ける

「………その時は覚悟しろ」

沖田はなおも振り返らず手も止めようとはしない。

「わざわざそんな事を言う為だけにこちらへ?」


「…………」


「副長らしくもない…」

沖田は目を伏せながら笑みをこぼす。

「私があの方にして差し上げられる事はもう何もないんですよ」

土方は腕を組みながら沖田の後ろ姿を見ていた。

「ただ…古高との関係を絶たせる事が出来なかったのは私にも責任があります……一つお願いしても良いですか?」

沖田は手にしていた刀を鞘に収め傍らに置き、土方に背を向けたまま真っ直ぐに奥の壁に向かい背筋を正した。

「もし……その万が一の事があった時は他の隊士を彼女の元へ行かせないでください」

「………」

「私が行きます」

「……総司」



沖田はゆっくりと振りかえり、真剣な眼差しで土方を見据える。




「彼女を私以外の者に斬らせたりはしないで」


「…総司…おまえ…」


「…………」


「分かった、約束しよう」


沖田は表情を崩し、いつもの柔和な微笑を浮かべる。

「来てくださってありがとうございます、土方さん…」




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