inzm go

□伸ばした手
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剣城がこそこそと一人で行動しているのだと、部員の間で少しだけ騒ぎになった。
それは、地区予選も終わり、とうとう全国大会だ、と言う時だった。


剣城は多くは語らないが、やっと仲間になったものだと、誰もが思っていた。
自分のサッカーを、兄さんと約束したサッカーをするようになったのだと、。
しかし剣城は未だに、黒い影と接触していると、校内の生徒や、二軍サッカー部員が話す。浜野はそれを良いと思わなかった。みんなが噂に揺れ動く中、浜野一人、剣城の無実を貫き通した。

「ちゅーか!剣城はぜーったいそんなことしねぇ!」

浜野が頬を膨らませて言うので、倉間が腕を組みながら、証言ならたくさん出てんだぞ?と話す。確かに話はひっきりなしに飛び交っているが浜野はどうしても信じられなかった。

剣城は本当は心優しい青年なのだと、浜野は知っていた。さりげない彼の行動にはチームを思いやる何かがあって、浜野はそれを個人で体験していたからだ。


とある練習の日、浜野はディフェンダーとの接触で軽く足をひねってしまっていた。しかしそれで練習を止めるわけにもいかず、痛い足を無理に動かしながら練習に励んでいた。
その日の練習の後、突然剣城に腕を掴まれベンチまで引っ張られた。マネージャーが片付けで出てしまっていて不在だったため、剣城は何も言わず救急箱をだしてきた。

「ほえ、剣城?いいよ!ほら、痛くないし!」

ずきんと痛みが走る。剣城はてきぱきとスプレーをしたりテーピングをしている。

「無理…しないでください。足は大切出すからね。」

そういいながら見上げてくる剣城の瞳は真剣で熱を帯びていた。兄の事もあり、そのことに敏感なんだろう。その真剣な瞳に一切の曇りはなかった。

「剣城…、ありがと…。」

「いえ…あんたは、危なっかしいから、よく見てるんですよ、ね。」

剣城に言われてもピンとこなかったが、そうらしい。その時の剣城を知っていたら、誰も疑えないはずだ。



「俺は信じるもんね!剣城はフィフスセクターから離脱したって!」

浜野は、そう信じたかった。



数日間、浜野は剣城を観察していた。熱心に練習する姿や、兄のお見舞いに行く姿なんかを見ていた。やはり、剣城が裏切るなんて思えない。


「浜野先輩。」

「ん?どーしたの剣城?」

話しかけられたのは、初めてだ。
まさか、最近視線を送っているのがばれたか。

「足、大丈夫ですか、」

ぶわわわ、っと。

顔に熱が上がるのを感じた。
剣城がかがみこんで足首に触れたからだ。

「ふぇ!?うぁ、だ、大丈夫、だよ!」

「そーですか、よかった。」

少し笑って片膝をついていた剣城が立ち上がる。浜野より幾分背が高い剣城に見下ろされ、彼を目で追ってるうちになにか別の感情が湧き起ってることに気が付いた。

「つるぎ…!」

必死になりすぎて声が裏返ったが、そんなのも気にしていられない。

「俺、お前の事、信じてる…ちゅーか、す……」

好き、。
そう言おうとして、剣城に向き直ると。

「君を信じてくれる人が、この学校にいるんですね。いやぁ、感心した。」

黒いタキシードの男が、剣城の肩を掴み立っていた。彼は、まぎれもなくフィフスセクターの人間だ。


「剣城…!」

「ありがとうございます。浜野先輩。」

肩を押され、剣城が身をひるがえす。
彼は、いまだにフィフスセクターに身をささげているのか…。

「俺も、好きです、よ。」

振り返ってそういった彼の表情は、
酷く悔しそうなものだった。そんなのを見せつけられてしまっては、信じないわけがない。


「っっっ!フライング、フィッシュ!」

とっさに落ちていたボールを蹴る。
あたりは水に包まれたような錯覚に眩み、ボールが黒いタキシードに命中する。

「離せ!剣城は、俺たちの仲間だ!」

「浜野先輩!」

黒いタキシードの男は消えていく。
浜野は怒りに目頭を熱くしながらなおも消えていくそれに飛びかかろうとする。

「俺はここにいます、だから浜野先輩!」

突っ込もうとする浜野に剣城は手を伸ばした。そのまま折れそうに細い腰を自分の方へと抱き寄せる。

「おわっ!」

浜野はそれを予期していたはずもなく、剣城の上に尻もちをつく形になった。もう、フィフスセクターの陰は見えなくなっていた。

「大丈夫ですか、浜野先輩。」

「う、ぅん…、ちゅーか剣城、こそ…」

浜野の顔は見る見るうちに赤に染まる。剣城はそれをわかっていて一層ぎゅっと腕に力を入れて膝の間に収まる彼の肩に鼻をうずめた。

「俺は平気です。…浜野先輩、先輩にだけ、言っても良いですか…?」

剣城はいつもより低い声で話す。抱きしめられたままの浜野も、その声に耳を傾けていた。

「俺がフィフスセクターと絡んでるって噂は…本当です。でも、俺は…俺は、雷門を人質にそれていたんですよ。」

「っえ…?」

「俺がフィフスとして、他校をつぶし、内部から雷門を潰さなければ、今の雷門の選手の未来がなくなるって…脅されて。だから仕方なく従ってました。都合がいい、言い訳と思うならそれで構いません…でも、浜野先輩には話しても、大丈夫な気がして。」

なんででしょう、と最後に小さな声でつぶやいたっきり、剣城は黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙の後、今度は浜野が口を開く。

「俺には、どうしても剣城が裏切るなんて、考えられなかった。俺の足を治療してくれた時も、いつも普段サッカーしてる時も、剣城はすっげーまっすぐで真剣なんだ!そんなやつが、そんな優しくて熱いやつが、裏切るわけない…ちゅーかぁ…なんで今まで…一人で抱え込んで…」

「ふは、なんですか、俺別に、一人でも守れましたから。でも、なんか、浜野先輩、最近よく見ててくれたからいえそうな気がして。」

浜野が涙声になると、剣城は後ろから抱きすくめながら彼の顔を覗き込んだ。そして無邪気に笑う。

「…見てたの、ばれちった?」

「もろバレです。下手すぎですよ、尾行。」

くすくす笑う剣城。初めて見る彼の表情に先ほどの言葉を思い出す。

「あ!ああああのさ剣城!さっき、の〜、あのーあれ、ほんと…?」

「ほんとじゃなかったら、今こんなこと、してませんよね。」

再び腕に力がこもる。
肩に押し付けられた剣城の顔。浜野のそこに熱が集まるようで、彼の顔をさらに赤く染める。

「だよねー、ははは…」

「ねぇ、浜野先輩も言ってくださいよ、さっきの続き。」



そう、剣城が連れて行かれそうになったときに、発そうとしていた言葉。
二人の気持ちはとっくにつながっている。

浜野は剣城の腕からふわっと離れてその赤い顔を剣城に向けてから彼にまっすぐ、ねだるように手を伸ばした。

「俺も、剣城が好き。サッカーバカで優しいとこが、好き。」


伸ばした腕はいとも簡単に絡めとられ、
引き寄せた合った二人はどちらからともなく唇を重ねた。


end

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