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□ピラミッド
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◆ピラミッド/高緑高

「言っちゃわりーけど、来年も同じクラスだとは限らねぇんだぜ、オレら」

緑間の中のてっぺんにあるのは常にバスケの事だ。バスケに人事尽くしすぎ、てかそれ以外にしてることが全部バスケで勝つための人事になってんじゃねぇかな、って最近思う。いや、おは朝に命握られてるのは十分に知っているのだけれど。

授業の合間の休憩時間中、緑間は用を足すか水飲み場に行くかする以外は大抵自分の席に着いたままだ。30人程度のクラスで、一日の内に話す人がオレだけの日も少なくない。というか、それだけならまだ良い。クラスの話し合いの場では何が何でも自分の意見を通そうとするわ(流石に言い過ぎじゃね、って時はオレがフォローに回ってる)、自分が無駄だと思ったらやらないこともあるわでてんてこ舞いなワケよ。

それはコミュ障というより、緑間の人柄というか雰囲気というか、それらが彼らを寄せ付けないのだと思う。「……何のことだ」と怪訝そうな顔をする緑間はまさにその典型。だからそのコワい顔やめろって。少しは笑えって。

「いや、だからね?ぶっちゃけ言うと、真ちゃん極端に友達いねぇじゃん。まぁ、高尾ちゃんっていう相棒がここにいるけどさ。だけどなんつーの、もうちょっとクラスに馴染んでみたら、とか思ったってわけ。いや別にラッキーアイテムと向き合って座ってるのも真ちゃんらしくていいと思うんだけどさ」

そういう所がおもしれーんだけどな、ははは。オレは軽い感じで笑ったが緑間には面白くなかったらしく、ただでさえ怒っているように見える眉をさらにひそめていた。綺麗な顔が台無しだぜ真ちゃん。そうやってまた笑ってやろうとしたが、できなかった。理由は緑間が苛々した様子でオレに向き合ったからで、その顔が苛々してようがやっぱり綺麗だからだった。

「その必要はないのだよ」
「なんでだよ。高校生活楽しみてぇじゃんどうせなら」
「楽しんでいるだろう。余計なおせっかいなのだよ」
「もっと楽しくできるのだよ」
「真似をするな。……はぁ…オレの高校生活には既に人事を尽くしたと思っていたが…違ったようだな」
「だろぉ〜?じゃあ早く「だがその必要はないのだよ」
「……だからなんでだよ!」
「お前がいるからだ」
「オレら来年も同じクラスだとは限らねぇって言わなかったっけか…。なんか最初に戻ってね…?」

ああもうやめだやめだ。これ以上話しても埒あかねー。そこも、真ちゃんの良さのひとつだもんな。余計なこと言っちまってごめんな?オレは何故か申し訳ない気持ちになって、話を切り上げようとした。しかし緑間は尽くせてなかった人事を今尽くしたいらしく、前を向き直そうとしたオレの腕を掴み「よく聞け」と、それまた低い声で呟く。

「別に同じクラスでなくとも、お前はどうせオレのところに来るのだろう。お前が、親しい友人の少ないオレを心配して会いに来るだろう事など既に分かっているのだよ。お前は良いやつだからな。それに、お前の中の一番には常にオレがいるだろうことも把握済みなのだよ」

だからクラスに馴染む必要性などないのだよ、分かったかバカめ。その溜め息の混じった一言の後、ちょうど休憩終わりを告げるチャイムが鳴る。それがどうでもいいくらい、オレの心臓は高鳴ってる。くそ、これだからこのツンデレは。

「ナニソレ、舐められてんのか誉められてんのかわかんねえよ」
「勘違いするな。騒がしいのはお前一人で十分だと言っているのだよ」
「やっぱ誉めてんじゃねーか!俺が隣にいることがどんだけ楽しいのよ真ちゃん…!」
「…つまらなくはない」
「はい出ましたツンデレ!」
「うるさいのだよ…。もう授業が始まるぞ、前を向け高尾」

こんな状態で授業なんかまともに受けてられるかよ!そのせいでまた、次の休憩には緑間のノートを見せて貰うことになるのだろうか。で、どうせ分かんないところばっかで「これくらい小学生でもできるのだよ!これだから高尾は…」とか言って呆れられるんだろうな。呆れながらも教えてくれるんだろうなぁ…で、休憩時間はほとんどそれで終わりだよな…
って、アレ?

(もしかして休憩時間の真ちゃんが席につきっぱなのって、オレのせいじゃね?オレが真ちゃん独占してるから真ちゃんに友達いねぇんじゃね?)

世紀の大発見に、オレはすかさず後方に振り向いた。苛々したご様子の緑間を無視して、小声でどうしても伝えたいことがある。
(オレ、案外お前の事独占してぇみてぇだわ。)
目を見開いた緑間を見て、オレの中にはエース様の君臨するピラミッドが存在しているとその時やっと自覚させられた。

(だから、そんな事は既に知っているのだよ!早く前を向け!)
(その顔オレに見られたくないもんな?)
(真面目に授業を受けろと言っている!)

キレる緑間の顔は軽く赤面していて、その様子がなんとも面白くて、オレは笑った。


2013.04.07

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