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□単純明快思考回路
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◆単純明快思考回路/緑高

何が原因だったかはもう忘れた。もともと記憶力のいい方じゃない。楽しそうなことがあったらすぐに飛び付いて、嫌なことはころっと忘れちまう。けど今回はその相手が悪かった。何しろあの真ちゃんと喧嘩なんて。オレも久々に自分をバカだと思った。

一応対策は考えてある。あいつはオレみたいに単純な奴ではないけれど、好きなものを目の前に出されて嫌な人間ではないことは確かだ。真ちゃんの好きなもの。ズバリ、おしるこ。それを緑間の前に差し出せば、オレなりの精一杯の誠意ってもんが伝わるだろう。

そう思っていた。


「今回はマジでオレが悪かった!だから機嫌直してくれ!ほら、仲直りの印のおしるこだ」

喧嘩した翌朝、教室内にて。頭を下げながらおしるこを彼の机に差し出す。本来ならばここで「顔を上げろ高尾。ここまでされたら、なんだか怒っているのが馬鹿馬鹿しくなってきたのだよ」と優しい言葉をかけて貰う計画だった。(そんな真ちゃんいたらおかしいって?オレの考えはいつだって単純なの!)

しかし緑間はどこまでも無駄な人事を尽くしまくる男でした、まる。

「ふん、そんな事だと思っていた。だが残念だったな。おしるこは既に購入済みなのだよ!」

おしるこ一杯で動くような安い男じゃないのだよ、見くびるな!勝ち誇った様子でオレをあざ笑うかのように汁粉をすすり始める緑間。なんだよ腹立つ!

「んだよ!せーっかく買ったってのによ。ったく、こういう下らねーところで妙に用意周到なんだもんなぁ」
「そこは安心しろ。オレが貰っておくのだよ」
「はぁ?貰うのかよ!」
「お前は飲まないだろう?」
「そうだけど。…くっそ、貰うもんだけ貰っといて…とっとと機嫌直せよな!」

緑間は明らかにこの状況を楽しんでいるようにしか見えない。「そうだな…」考えるような素振りを見せ始めたのは一本目のおしるこを飲み終えてからだった。

「高尾、今日部活後にオレの家に来い」
「え、なになに真ちゃん夜のお誘い?」
「それ以外に何があるのだよ」
「ぶはっ、オマエそれでオレのこと許すってか!どんだけ不純なのよ!」

思わず机をばんばん叩きながら吹き出してしまった。さっきからクラスメイトからの視線が痛いほど集まっているのは知ってるが、更に視聴率が上がった。しかし緑間は真剣な顔をして言う。

「不純?心外だな。好きなもので釣ろうとするお前の方がよっぽど不純極まりないのだよ」
「あ、ばれてた?」
「ばれないと思ったか」
「いや?てかアレか、わざわざおしるこ買う必要もなかったのか。真ちゃんオレのこと大好きだもんな。黙って自分差し出してればそれで解決、的な?」
「……馬鹿が。声が教室内に響いているぞ」
「はは、知ってる。てか図星なのかよ!」

朝からこんな話をして、オレと緑間のクラス内イメージがどん底まで下がったのは言うまでもない。けどそんなことどうでもいい。オレがいる。お前がいる。それだけでいい。複雑なものは嫌いだから。オレ頭悪いし。

「昨日オレを怒らせた罰として、暫く一人でやってもらうからな」
「真ちゃんってば変態なんだから」
「お前も同じようなものだろうが。オレだって、たまるものはたまるのだよ」
「ヤりたい盛りか!」
「言わなくても分かるだろう。せいぜい鳴き喚け」
「へーへーそれは楽しみにしてますよっ」


2013.04.09

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