文章

□beyond all bearing
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◆beyond all bearing/高緑

※同棲高緑

朝起きたら、喉が痛くてしょうがなかった。こんこんと咳も出る。バカは風邪を引かないというから、これによってオレはバカでないことが証明された。それを、いつもバカ尾だとか能無しだとか言ってくる緑間に皮肉っぽく告げたら怒られた。

「お前が風邪を引いて寝込んだら、誰がオレの飯を作るのだよ!」
「オレの心配よか自分の飯の心配かよ…そりゃないぜ真ちゃん…」
「自業自得なのだよ。髪を乾かさないまま事に至ろうとするから。少しは我慢を覚えるのだよ」

我慢を覚えろって真ちゃんさぁ…お前が眼鏡外してじーっとオレの事見てるのが明らかに悪いだろ。食べてくれ、って言ってるようなもんだぜ?自覚が足りないのだよ、自覚が!

「だーって風呂上がりに真ちゃん見たらさぁ…自分の髪なんかどうでも良くなるだろー?」
「そのせいでお前が風邪を引いて、オレが迷惑してるだろうが。寝込むほどでないのが不幸中の幸いなのだよ」
「ごめんって。今日はコンビニで適当にメシ買ってよ」
「当たり前だ。高尾、お前は帰ってきたらすぐに寝ろ」

そんなやりとりをして、オレは真ちゃんよりも早く家を出た。同じ家に住んで、それぞれ別々の会社に勤務している。本当はもう少しオレの会社に近い場所が良かったのだが、緑間の「おは朝を見てからでも十分に間に合う家に住みたいのだよ」という一言によってオレの希望は呆気なく却下されたのだった。



いつもなら、オレが帰ってから夜ご飯を作る。いつもなら、緑間はオレよりも早く家に着くので、オレを待ちながら読書。でも今日のオレは、帰ったらクタクタになってて料理どころではないだろうなと思う。

頭がぼやぼやしながらの仕事はあまり捗らなかった。普段しないようなミスの連発で上司に珍しく怒られ、身も心も疲れ果ててしまった。失敗の埋め合わせでいつもより長く残業させられるし。あーあ、ついてねぇの。


To:真ちゃん
Sub:ごめん
本文:今日遅くなる。
   先に寝てていいからな!


残業決まった時間に緑間にメールをしたが、これといって返事はなかった。きっと(風邪引いているくせに、バカか!!)とキレているに違いない。返事する気も失せたんだろうな。それか、もう寝ちまったかなぁ。あー可哀想、オレ。まぁこの風邪の原因はオレ自身だけど。



明日緑間になんて謝ろうかと考えながら、オレはだらだらと家に帰る。ふと気付いたときにはもう家の前まで到着していた。そこで、オレははっとした。

何故か、家の明かりが煌々と付いているのだ。

(アレ、真ちゃんまだ起きててくれてるの?)

心に妙な期待を寄せながら扉を開ける。

「ただい……って、なんだこの匂い!?」

そこらに充満した、謎の甘い匂いとちょっと焦げた臭い。焦った気持ちを胸に、足早にキッチンに向かう。火の元は大丈夫なようで、ひとまず安心した。それと同時に、流し場付近にちょこんと置かれた土鍋を、オレは見逃さなかった。

中には、お汁粉を入れたっぽいお粥みたいなもの。近くに小さなお椀と、れんげ。

「……真ちゃーん、まだ起きてるー?」

電気の付いているリビング、ソファに頭を預けている大男が1人。オレは嬉しさを伝えたくて、緑間の肩を叩く。

「ねぇ真ちゃん真ちゃん」
「………ん……高尾…?…おかえり。っじゃない、おそいのだよ!バカが!」
「ねぇこれ!!真ちゃんが作ってくれたんでしょ?」

緑間は起き上がってオレの手元を見るなり、顔をオレから背けた。オレはもう心臓痛くてどうにかなりそうで、とりあえず緑間を背中から抱きしめる。

「お前が作ってくれたんだろ?オレのために。料理苦手なのに、頑張ってくれたんだ」
「うるさい!料理できなくて悪かったな!バカにしに来たのだろう!」
「そんなワケねーじゃん。なぁ、こっち向けって」
「嫌なのだよ」
「キスしてぇんだよ」
「風邪を移す気か」
「あ……そうだった」
「だから我慢しろとあれほど言ってるのだよ…」

呆れ顔の緑間。いやいや、オレだって呆れたいところはありますよ?お世辞にも上手にできたとは言えない、ぐちゃぐちゃ。てかなんだよご飯にお汁粉って。ハイセンスすぎてついて行けねぇよ!まぁ、言いたいことはいろいろあるけど、今はこれだけを言わせて。

「ありがとな。誰よりも愛してるぜ真ちゃん!」
「……何を当たり前のことを」


言いながら、オレの頭を撫で始める緑間
その手が大きくて、優しくて。
くそ、この無意識ばかめ!

(ほらな、だから我慢が出来なくなるんだよ!)


*beyond all bearing:我慢できない


2013.04.15

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