文章

□ため息の理由
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◆ため息の理由/高緑高

※緑間side

「真ちゃーん!一緒に飯食おうぜ!」

昼休み前の授業が終わると同時に発される高尾のお誘いはもはや恒例になった。同じクラス内にいるのに(しかも席も前後なのに!)、無駄に甲高い声でオレを呼ぶのは正直やめて欲しいと思う。それを聞いているクラスの面々は「高尾ってホント緑間くんの事好きだよね〜」と笑い出す始末。高尾は「はは、バレちった?」なんて冗談らしく笑うが、オレを巻き添えにするなと思う。オレは別にあんな奴の事は好きじゃない。アイツが勝手にオレに付きまとってくるだけだ。第一、高尾とずっと一緒にいたりしたらバカが感染る。

「…なら早くしろ。もたもたしていると先に食べてしまうぞ」
「分かった。真ちゃんも用意しといて」
「バカめ。用意など既に終えている」
「あはっ、相変わらずはえーの!」

ちょっくら便所行ってくる!と立ち上がった高尾を目で送って、開けた弁当箱の蓋をしめながらため息をつく。ため息をついて、さてこれは何に対してのため息なのだろうと思った。

(何故高尾などのためにため息をつく必要がある?どうかしている…)



用を足す時間にしては長く待った。高尾に待たされてる事自体がイライラするのに、こんなに時間をかけるとは何事だ。5分以上は確実に経過している。先程からちらちらと高尾が出て行った扉を眺めているが、一向に帰ってこない。

一体どこで油を売っているだよ!と廊下に出ようとして教室を見回したら、高尾は案外近くにいた。オレのことは置いておいて、クラスの男子と喋っていたのだ。見つけて、無意識にため息が出ていた。

(オレを待たせているというのに……)

半ば呆れながらその様子を見ていると、クラスメートの方がオレに気付いたらしく、高尾に何かを伝えると、高尾はこちらを向いた。こいつから誘ってきて待たせた挙げ句、「ごめんごめん」と軽い感じに謝ってくるのはいただけない。

「わりー!ごめんな、そんないじけんなって」
「誰がいじけているのだよ!…まったく、お前のせいで昼にやろうと思っていた予習をいつもの2倍の速さで終わらせなければならなくなった。」
「まじごめんって!ちょっと捕まっちゃって話してただけじゃん。いただきまーす」
「だからお前はダメなのだよ!一分一秒を適当に過ごすなど言語道断。人事を尽くしていることにはならないのだよ」
「へーへー。そこまで言うなら先にやってりゃ良かったのに。そこまでオレと一緒に昼飯食いたかったんだ?」

オレは意表をつかれて黙り込んでしまった。オレにはそんなつもりなど欠片もなかったのに。確かに言われてみればそうだった。高尾がトイレに行った時点で、オレは高尾の誘いなど無視していれば良かったのだ。なのに何故。オレは高尾を待っていた。待たせているのに他の男と話している意味が分からず腹が立っていた。オレが先に食べている、という選択肢は忘れていた。

コンビニで買ったらしい菓子パンを食いちぎりながらべらべらと話していた高尾だったが、オレの返答が止まってきょとんと顔を上げる。

「………し、…真ちゃ「黙って食え!」

オレはそう叫ぶと、すぐに弁当箱を開けて黙々と食べ始めた。しばらくして、目の前の男はくくく、と笑い出す。

「真ちゃんて、ほんと可愛いよな〜」

「ふざけるな!」と言い返したかったが、きらきら輝く高尾の笑顔を見たらその気も失せた。代わりに出てきたのは、深いため息だった。


2013.05.02

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