文章

□恋患い
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◆恋患い/高緑高

※「ため息の理由」と同軸ですがこちらを後にお読み下さい。高尾side

「真ちゃーん!一緒に飯食おうぜ!」

昼休み前の授業が終わると同時にオレはいつも緑間を誘う。そうしなければ、彼はひとりで勝手にご飯を食べ終えてしまうからだ。同じバスケ部で一緒にレギュラーやっててクラスメート(しかも席も前後!)なのだから、昼飯くらい一緒に食おうぜ、ということでオレは緑間の嫌そうな顔を我慢して昼飯に誘うのだ。それを聞いているクラスの面々は「高尾ってホント緑間くんの事好きだよね〜」と笑い出すけど、そんな甘いもんじゃない。「はは、バレちった?」なんて言ってるけど、結構辛いんだぜ。いわゆる片想いってやつだ。しかしそんな一方通行も、最近はだいぶ緩和してきたように思う。

「…なら早くしろ。もたもたしていると先に食べてしまうぞ」
「分かった。真ちゃんも用意しといて」
「バカめ。用意など既に終えている」
「あはっ、相変わらずはえーの!」

バカめ、の時に口元が緩むようになったのはなんでだろうな、オレ少し期待しちゃいそう。ちょっくら便所行ってくる!と言うとそれもすぐにいつものしかめっ面に戻ってしまったが、オレが教室を出ようとするとき開けた弁当箱の蓋をしめてくれていたのが見えた。緑間にはこれまた優しいところがあるのだ。

(……どんどん好きになっちまう…)

人はきっと、この気持ちを恋患いとでも呼ぶのだろう。



用を足し終えて教室に戻ろうとした途中で「あ、高尾じゃん」と肩を叩いてきたのはクラスメートの男子だった。

「そういえばさ、オレこの前お前にプリント借りたじゃん?答え写し終わったから、返したいんだよね」
「そうだったけか。プリント分かったか?」
「おー。めっちゃ分かりやすかった」
「だろだろ!実はさ、あれオレもよく分かんなくって緑間に聞いたのよ。そしたらこれがまた超分かりやすく教えてくれて!やっぱ持つべきものは天才の相棒だな!!」
「緑間か…」

喋っている内に教室前まで来たが、そいつの席の場所の都合上、先程出た扉とは違う方からの入室になった。緑間がオレが出た方の扉を何度も見ているのが見えた。あいつが律儀な奴だから待ってくれているということは分かり切っていたのだが、少し嬉しくなっている自分がいた。都合の良い脳みそをしていると我ながら思う。

「てかさーお前、よくあんな奴とつるんでられるよな」
「あ〜緑間のこと?」
「他に誰がいるんだよ」
「いねーな。つかあんな奴呼ばわりやめて…吹き出しそ…」
「だってかなり変人じゃね?高尾、疲れねーの?部活も一緒にやっててクラスも一緒で…」

そいつはオレの身を案じていたらしかった。しかし、残念。まったくの見当違いだ。

「ああ見えて結構優しいトコあんのよ?まぁあいつはオレのだからやらねぇけど!」
「………いらねーよ。つかさっきからすっげ睨まれてんだけど…」

えー?と振り返ると、確かにオレを視線だけで殺せるんじゃないかというくらいの形相の緑間がそこにいた。やっべ怒らせた!!オレは場を和ますために「ごめんごめん」と軽く謝り、席に戻る。

「わりー!ごめんな、そんないじけんなって」
「誰がいじけているのだよ!…まったく、お前のせいで昼にやろうと思っていた予習をいつもの2倍の速さで終わらせなければならなくなった。」
「まじごめんって!ちょっと捕まっちゃって話してただけじゃん。いただきまーす」
「だからお前はダメなのだよ!一分一秒を適当に過ごすなど言語道断。人事を尽くしていることにはならないのだよ」
「へーへー。そこまで言うなら先にやってりゃ良かったのに。そこまでオレと一緒に昼飯食いたかったんだ?」

コンビニで買った菓子パンにかじり付きながらべらべらと喋っていたが、会話はそこで途切れてしまった。オレ変なこと言った?やべ、冗談のつもりだったのに!恐る恐る顔を上げると、緑間と目がかち合う。ドキッとした。

「………し、…真ちゃ「黙って食え!」

緑間はそう叫んで、すぐに弁当箱を開けて黙々と食べ始めた。彼は耳まで真っ赤に染めている。その様子にオレは、くくくっと笑い出さずにはいられなかった。

「真ちゃんて、ほんと可愛いよな〜」

笑ったついでに思わず言うと、緑間は何か言いたそうな目を向けたが、すぐに口を噤んだ。そんな小さな動作さえ可愛く見えてしまうもんだから、どうしようもなかった。緑間はオレのバカさ加減にため息をついていたが、オレだってため息をつきたい。これだから恋患いは厄介だ。


2013.05.02

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