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□雨の日はお好き?
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◆雨の日はお好き?/高緑高
その日は雨が降っていた。
皆が足下に視線を落とし歩む姿はどこか寂しげだ。閉塞的なムードが辺り全体に漂う。開かれた傘のように心も開放的になればいいのに、とオレは思った。そんな中普段からバカでしかない男は、しばらく吹いていた口笛を止めてオレに話しかけてきた。
「なんでみんな雨の日はユーウツなんだろうな」
いかにも不思議そうに言うので「…お前は違うのか?」と聞くと、「うん。オレ雨の日大好き」と嬉しそうに答えた。オレは「そう言うと思った」とだけ言って、無言でまた歩き始める。
雨の日は嫌いだった。まずナイトキャップ効果で寝癖がほとんどつかないというのに、湿り具合で髪型に違和感があるからだ。それだけでなく、テーピングにも違和感が生じる。まぁこれらは人事を尽くしているオレにとっては些細なことすぎて、運勢になんら変化はないのだが。面倒事が少し増えるのと、寒さが嫌いだった。たまに滴がレンズに付着するのも困りものだった。
「だけど晴れの日も好きだぜ」
「知っている」
「曇りの日も」
「だろうな」
「雪の日も、台風の日だって」
「お前は仕方のない奴だな。好きなものが多すぎだ」
晴れの日は暑いし、曇りの日はいつ雨が降るのかと心配させるし、雪の日は歩くのも大変だし、台風の日はもはや学校に行かなければならない意味が分からない。今まではそうだった。
けれど今は、それに対する嫌悪感は無いに等しい。理由は単純だった。
『オレの嫌いなものを全部好きだという隣の男』
アスファルトの窪みに水が貯まっていた。彼は童心に返ったように、びちゃびちゃと足を踏み入れた。その笑顔は太陽みたくキラキラしている。
「だってしょうがねぇじゃん?オレが一番好きなのはお前だし?隣にお前がいたら、なんだって好きになるさ。」
プライドやら何やらが邪魔をして「オレもだ」とは言えなかった。代わりに、近付いていってそっと唇を奪う。
「雨の日も、悪くはないな」
2013.5.30