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□クリムゾン・スクリウム
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【鳥籠の中】


午前7時32分。
最寄駅からいつもの電車にエレンは乗る。
椅子は満席だが車内は比較的空いていた。
左側ドア近くに背中を預けスマホ弄りを再開する。
午前7時40分。
(来たっ…!)
ドアの開閉と同時に大量の人がなだれ込む。
乗車率100%を越えた車内は一気に温度湿度が上昇し酸素が低下する。
(サイアク…。)
こんなことならもっと勉強して地元の進学校に入ればよかったと何度後悔したことだろう。
小さなため息をつきながら、足元の鞄がズレないよう両足で再度挟み直した。
その時、
「!?」
下腹部に違和感を感じて体の芯がじわっと熱を帯びる。
突然のことにエレンは焦り、慌てて目線を下へ落とす。
混雑する車内で他人とありえないほど密着するのは仕方ないことだが、エレンの両脚の間に見ず知らずの太ももが割って入り股間を押し上げていた。
「すまない。」
「い、いえ…。」
目の前にいる30代くらいのサラリーマンの男性が小声で謝ってきた。
さらさらとした短髪の黒髪、切れ長の目を持つその人物は、同性にも関わらず思わず心が動かされるほど綺麗な顔立ちをしていた。
すし詰めの車内が相当ストレスなのか眉間のシワが目立つのが気になる。
(背が低いし体も細っ…これが女の子だったら最高なのに…。)
スマホも出来なくなった窮屈な時間をエレンはくだらない妄想で紛らわせていた。
「っ……!!」
この先カーブですのアナウンスと同時に立っていた人間が一斉に左側へ傾いく。
目の前の男はかろうじてエレンの横にある持ち手に捕まったが、後ろの乗客に押されほぼ抱きつかれているような状態だった。
太腿が股間にさらにくい込み、意志とは無関係に甘い吐息が溢れる。
「ふっ…んん…。」
よりにもよって同性相手に声を出してしまったとなれば一生の恥。
エレンは慌てて口をつぐんだ。
少しでも離れたいと狭いながらもモゾモゾと動いてみたが、背後は車体、横は椅子の手すり、その反対は男がドア横の持ち手を掴んでおり、四方囲われたこの状況では逃げ場がないことに気づく。
なにより足元で挟んでいた分厚い鞄が邪魔をして脚を閉じることが出来ず、目的地にたどり着くまで耐えるしか選択肢はなかった。
(早く駅に着いてくれ……っ!)
現状に対して諦めたエレンは、さりげなく手で口元を抑え誤解を与えぬよう寝たフリをして誤魔化そうと考えた。
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