短編集〜華〜
□『出会いは桜とともに』
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(サクラサク。すべては、この出会いから始まった…)
春、新しい出会いを咲かせる桜。
まだ、寒さの残る四月。
新しい制服に身を包み、今日からこの雷門中に入学する。
校門をくぐると、少し冷たい春風とともに、新入生たちの姿が見えてくる。皆の顔は、不安そうで、でもどこか新しい毎日に期待を寄せているような、そんな表情だ。
俺は円堂を探して歩き回り――――
ふと、一本の大きな木の前で歩みを止める。
それは、見上げるほどの大きな桜の木だった。しかし、桜の木なら、周りにたくさんあるし、他と何ら変わりない。でも、どこか違う。何がかは分からない。気になり、歩み寄ってみた。
桜は、立派に花を咲かせていた。美しく、儚げに。でも、力強く。
(…綺麗だ)
「でしょ。あなたたちの入学を祝福してくれているわ」
「!?」
感傷に浸っている所に声をかけられ、しかも心の内を読まれたかのような返答をされたので、驚いてそっちを振り向いてみた。
そこにいたのは、桜と同じ色の長い髪をなびかせた女子生徒だった。
(誰だろう…?)
ストレートなその髪の毛を、うなじのあたりで軽く結っている。顔だちも整っていて、物腰柔らかそうな雰囲気だ。
「驚かせてしまってごめんなさいね」
「ぁ、いえ…。でもどうして…?」
「桜の木は他にもたくさんあるのに、この木に目が止まっていたからかな…」
スッと目を細める。
「この木はね、特別なの。雷門中が建てられた時からずっとあるのよ」
だから違ったのか。俺はどうやらこの不思議な雰囲気を感じていたらしい。
「でもね、秘密はまだまだたくさんあるのよ。卒業までにたくさん見つけてね!じゃっ」
突然駈け出してしまった――かと思いきや、くるっと振り向き、
「忘れてた…ようこそ、雷門中へ!!」
飛び切りの笑顔をくれた。
「っっっ///」
しばらく、呆然と後姿を見つめていた。
「おおーい風丸!」
聞き覚えのある声を聞き、ハッと我に返る。――円堂だ。
「ごめん遅くなった…って風丸??顔が真っ赤だぞ」
「へ?あ、いや、何でもないよ」
「そっか。それより早くクラス発表見に行こうぜ!」
「ああ、行こう…」
円堂の言葉にうなずきながらも、どこか上の空の俺。
春、新しい出会いを咲かせた桜。
清らかで美しいあなたに一目ぼれしました。
(花言葉は『優美な女性』)