novel

□いつか
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例えば、俺が真ちゃんと仲良くする事が世界の終わりを誘うとしたら、真ちゃんどうする?

そんな事を以前に高尾から訊かれた事をふと、思い出した。俺が何と答えたかは覚えていない。
ここは秀徳高校の校門前だ。忘れ物を取りに行った、という高尾を待っている。
何故今思い出したかは分からない。ただ漠然と思っただけだった。
もし、万が一そうなら、俺はどうするのだろう、と。

新緑の色が、夕日に燃えていた。空の色はあの時の、真剣な高尾の眼のようだった。
いつかの質問を思い出したのはその色のせいか。
それとも俺が、高尾に信頼以上の感情を寄せているからか。

俺はどうするのか、と少し考える。
世界が終わるなど、正直考えられない。ただ、ぼんやりと全てが無くなる、ということだけがふっと浮かんだ。
それは今俺が生きていて、死の恐怖がどこか遠く感じられるからだろうか。全てが無に帰すことが分からない。
バスケをして、本を読んで、食事をして、話して……そんなあたりまえが無くなる事が分からない。
それとも、考える事を脳が拒否しているのか。

次に、高尾との関わりを断つ事を考えようとした。
しかし、出来なかった。何故かは分からなかった。
いや、分かっていたが、認めなかった。
「信頼以上の感情」が原因なんて。
告げても、高尾を困らせるだけだと蓋をした感情が、認めてしまう事で、溢れてしまいそうで怖かった。
困らせてしまえば、今の関係は消えるだろう。
それよりは今の関係を維持していたい、という安全な道を俺は今まで選んできた。
それは何より大事だと今まで自分に言い聞かせてきた。

なんとなく、答えが見えた気が、した。

風が吹き、木々は揺れた。
先ほどから別行動をしていていなかった高尾の姿が小さく手を振るのが見えた。

俺は小さく呟く。
「いつか、必ず。」
その答えをお前に告げよう。そして、隠してしまおう。
この感情を、思いを。

高尾が、無邪気に笑った。

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