◇干支語

□巳(徒競走編)
1ページ/4ページ



ズン…

何者かが森に降り立つ。木々はその者が起こした暴風になぎ倒され、大地は爪で抉られた。







―――その森を見下ろせる所に位置する洞窟で、白い影がむっくりと起き上がった。その影に、もう一つの影がまとわりつく。
昼間の光は半分まで洞窟内を照らしだしているが、影には至らない。ゆっくりと開かれた眼が、そんな少ない光を反射する。

砂煙と、烏の群れが悲鳴のような声で鳴くのを眠たげな目で見つめると、影は小さく舌打ちした。
無理やり起こすようにして立ち上がると、旅人がよく被っているであろう底の浅い帽子をだるそうにのせる。
そしてゆらゆら、光の方へ歩を進めた。

帽子で直接光が目に入らないからと言って、やはり眩しいらしく、影の正体は目を細めた。
砂煙の位置を確認し、滑るように、それは山を駆け下りる。
貧弱そうな体は、まるで光をさけるようにしながら森を駆け、その場所にたどり着くのに、そう時間はかからなかった。

降り立った者が、駆けつけてきたそれを見下ろす。そして、低い、雷のような声で言い放った。







「よう…、森の中の引きこもり」







その声のせいで、のせていた帽子は吹き飛んでしまったが、気にする様子もなく。怪訝そうに睨みつけながら、引きこもりは







「…龍がこんなところに何しに来た」







怒気の満ちた、それでいて落ち着いた調子で言い返した。



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ