〜トリチアの場合〜

□無意識のカウンター
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小さい頃からずっと好きだった吉野とは、一生このまま編集者兼幼馴染みとして付き合っていくだろうと思っていた片想いが、両想いに変わり晴れて恋人となった。


……だが、俺はずっと悩みに悩んでいる事をどうすれば良いか模索し続けている。




【無意識のカウンター】




そんなことか、と言われればそうなのだが俺にとっては重大事項となっていた。

悩み続けていることとは――俺を煽る無自覚の無さ。

こいつの無自覚は質が悪い。悪過ぎる。



そう例えば、こんな感じに。




「わぁ///これ、俺が欲しかったやつじゃん!!」

「あぁ、お前がそれじっと見てたからな」

「さっすがトリ〜♪だ〜い好き♪」


漫画の背景一式を握りながら俺の背中に飛び付いてくる満面の笑みをした吉野。

科白、抱き付き、笑顔。

このどれもを無自覚にやっているのだから、やるせなくなる。


「あ、これ。さっき考えたネーム。ちょっと見てよ」

「あぁ、分かった。少し待ってろ」


漫画のこと以外は鈍感な吉野があれを常識的にやってくるのだから、必然的に『鉄仮面』と呼ばれるくらいの無表情になるしかない。

今考えると、よく28年間耐えることが出来たなと昔の自分に感心する……『惚れたら負け』とはよく言ったものだ。



「ト、トリ?」

「ん、なんだ?腹減ったのか?」

「違う違う!!トリが急にタメ息何かするからだろ!!」

「あぁ…」


どうやら、気付かぬ内にこぼしていたらしい。
このところ、今度やるフェアの挨拶回りや打ち合わせで働き詰めだったからだろうか?


「いや、少し寝不足なだけだ」

「大丈夫なのか?何かして欲しかったら言えよ?……お、俺が頑張ってやるからさ」


その最後の言葉に目を見張った。吉野がそんなことを言うのは初めてだからだ。
明日は槍が降ってくるのではないだろうか?


「なっ何だよ!俺だってやれば出来るんだからな!!そ、それに…//」

「?」


呆けていた俺に吉野は、最初の勢いはどうしたのか語尾が小さくなっていくに比例し、顔が俯いていく。

そのため聞き取れず首を傾げた、瞬間。髪の間から覗く真っ赤になった耳が視界に入ったと同時に。


「……こ、恋人の心配をするのは当然だろ/////」


詰まらせながら殺し文句を発し、目を逸らしつつ赤く綺麗に染まった顔を上げる吉野。
そこで理性がぶちギレたのを、片隅に追いやられた冷静な自分が認識した。




「――千秋、今夜は覚悟しろよ」

「ふぇ?…って、え"!?あれ!?俺何か変なこと言った!?!?」

「俺を煽ったお前が悪い」

「はぁ!?俺は何もしてねぇぞ!?つか寝室へ引きずってくなあぁぁぁー!!!」






END.


『無意識は質が悪い』


――最も質が悪いのは、無意識の時間差攻撃。
 

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