魂掴

□頂き物ーrival!―
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驚くほどの、ド素人だけどね。








初めて出来たライバルは、強力な共感覚(シナスタジア) を持っていた。 僕だって共感覚は持ってる。でも…悔しいけど君ほど じゃない。

「ね?そうでしょ?」

こっちを見たまま固まっている彼、もといライバルに問 う。

それは、偶然が生み出した奇跡であった。



ワイワイと色が混ざり合う教室に伊調はいた。 今日は全校登校日。クラスのみんなは、夏休みの思い出 をそれはもう熱心に喋っている。 ぐちゃぐちゃと複雑に、でもどこか楽しげな色。 伊調には分からない感情があちこち飛び交う。

「(あぁ…気持ち悪くなってきた…。)」

椅子から立ち上がり、ふらりと外へ出る。 もうあの空間に戻るつもりは無かった。登校日は授業も 無いし、出る価値も無い。伊調にとっては、時間をどぶ に捨てるようなものなのだ。

「(そんな勿体無いことするくらいなら、指揮の練習でも しながら散歩する方がマシだ…。)」



そして散歩に出た結果がコレである。 伊調はとても驚いていた。今の時間(朝の9時)なら誰も いないのではと思ったからここへ来た。それなのに…。

「神峰…翔太?」

まさかと思ったが、あんなに特徴的は髪型の人は他にい ない。 案の定こちらを振り向いた彼も同じく驚いたようで。

「お前っは…確か、伊調…だったよな。」

彼の心拍数が急激に上がる。緊張しているのか。

「そんなに緊張しないでよ(笑) それにしても…どうして『海』なんかにいるの?」

そう。ここは海だ。爽やかな風と白い波の音が、キラキ ラと美しいハーモニーを奏でている。 でも、今の彼から聴こえるのは、複雑で単調な、汚い音 楽だった。 何かあったのだろうか。この間会ったときは、もっと綺 麗な音を奏でていたのに。 そんなことを考えていた伊調は、神峰の表情が変わった ことに気がつかない。

「伊調…お前は、共感覚を嬉しいと思ったこと…ある か?」

突然の質問に、今度は伊調が固まる。 さすがの伊調もこんな質問をされたのは初めてだったの だ。

「なんでそんなことが知りたいの?なにか君に関係があ るの?」

思ったことを素直に口に出しただけなのだが、神峰は責 められているように感じた。

「あ…い、いや、やっぱりなんでもない。ごめんな、変 なこと聞いて。」

慌てて謝った神峰に、伊調は少しむっとした。なぜか分 からないけれど、モヤモヤする。 神峰の不協和音はさらに強まり、伊調の心を侵食してい く。

グイッ

「……っ!?あ、ちょっ…なにっ!?なになに!?」

気づけば、伊調は神峰を抱き締めていた。 なんでだろう。でもなんか…消えそうな不協和音だった から。寂しそうな顔してたから。なんか悩んでるみたい だったから…。 いろいろな言い訳が頭の中に浮かんだが、どれも違う気 がした。 分からない。自分の気持ちなのに。

「…あのね、僕は共感覚を嬉しいと思ったことは正直一 度も無いよ。 でも…嫌だって、いらないって思ったことも無い。だっ てさ、せっかく僕だけに与えられた力なんだ。使わない と勿体無いだろ?」

神峰を抱き締めたまま、伊調は語った。 こんなこと誰にも喋ったこと無いのに、口から自然と言 葉が出てしまったのだ。 その言葉を少し考えたあと、伊調らしいなと神峰は笑っ た。

「ありがとう伊調。なんか、心が軽くなった。 だから、その…離して…くれないか…///?」

恥ずかしいから…と顔を赤くする神峰につられ、伊調も 顔を赤くしてごめんと謝った。 やめろだの離せだの言いながら、大人しく伊調の胸にお さまっている神峰も満更では無いらしい。二人はお互い がライバルだということをすっかり忘れて、暫くその体 制のまま喋っていた。





はたから見ればそれは、恋人同士が海で楽しそうに喋っ ているようにしか見えないことを、二人は知らない。








(伊調の初めてのライバルは、音楽に対してド素人な神 峰。でも実は伊調だって、恋愛に関してはド素人なので した。)

end ￿
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