魂掴

□どんなことがあっても
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神「どうしよう‥」

神峰は階段裏で頭を抱えていた

さっき、唯一無二の親友で恋人の刻阪と喧嘩をしてしまったのだ
原因は覚えていない
何を言い合ったのかも覚えていない
しかし、酷いことを言ってしまったのは確かだ
その証拠に、神峰の左頬が赤くなっている
刻阪が手をあげるなんて、自分はよっぽど酷いことを言ったに違いない

神峰は自分の左頬を撫でた
さすが吹奏楽部
力が強い
明日は腫れているのかもしれない

明日からどうしよう
吹奏楽部に行ったら刻阪がいる
みんな自分たちのようすと神峰の左頬で喧嘩したことなんてばれてしまうだろう

早く謝らないと
でもなに言ったかも覚えていないから謝れない
もしかしたら刻阪は自分を許してくれないかもしれない

神峰の心を、罪悪感と、刻阪が離れてしまうかもしれない不安が押し寄せる
刻阪は、神峰の一番の理解者で、神峰を吹奏楽部に誘ってくれた恩人で、唯一無二の親友で、恋人なのだ
刻阪がいないなんて考えられない


神峰が膝に顔を埋めていると、不意に誰かが神峰の肩を叩いた

刻阪だ

顔を見なくても、なんとなくわかった

怒ってる?お前とは付き合えないとか?むしろ友達もやめようとか?
神峰は、悪い方へと思考を深めていく





「ごめん神峰」

え…?

悪い方へとばかり考えていた神峰は、刻阪の突然の謝罪に驚くしかなかった

刻「ゴメン神峰。酷いこと言った上に手をあげるなんて。図々しいかもしれないけど、どうか許してくれないか」

神峰が少し顔をあげると、しゃがんでいる神峰に合わせて膝をつき頭を下げている――下手したら土下座に見える――刻阪がいた

神「ちょ、頭あげてくれよ刻阪!悪いのは俺だ!」
刻「いや、先に手をあげた僕の方が悪い」
神「俺の方がキツいこと言ったし」
刻「僕なんて、喧嘩のきっかけを覚えていないのに謝ってるんだ。僕の方が悪い‥いや、最低だ」

自分を攻める刻阪の心が見えた

神「ははっ」
刻「神峰?」

刻阪が訝しげに聞いた
当たり前だ
急に笑い始めたのだから

神「いや、一緒だったんだなって」
刻「なにが?」
神「俺も喧嘩のきっかけ覚えてねぇんだ」

刻阪の心と表情がキョトンとしたあとに笑みがこぼれおちた

刻「ハハッなんだそれ」
神「二人とも覚えてねえなんて」
刻「そうだとしたら、やっぱり先に手をあげた僕の方が悪いということに…」
神「ここは おあいこでよくね!?」
刻「でも‥」

刻阪は頑固だ
いくら神峰が大丈夫だと言っても、自分が悪いと言い続けるだろう


神「じゃあさ、この前言ってた激辛料理店行かね?あの店、料理は辛いんだけど、デザートがすっげえうまいんだ!」
刻「‥わかった。僕が奢るね!」
神「え、一緒に行ってくれるだけで…」
刻「いや、このままじゃ僕の気がすまないから。いいね!?」
神「お、おう…」


仲良く歩く二人は、しっかりと手を繋いでいた
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