魂掴

□どんなことがあっても〜another〜
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どうしてケンカなんかしちゃったんだろう。






















どんなことがあっても〜another〜






















「どうしよう‥。」

刻阪は教室で頭を抱えていた。
ついさっき、親友であり恋人でもある神峰とケンカをしてしまったのだ。


「しかも!
よりによって、恋人の可愛らしい顔を叩いてしまうなんて!」


その上、原因は覚えていないときた。
どんな酷い言葉を浴びせてしまったのか…それすら覚えてない。
相当強い力で叩いたはずだ。その証拠に、神峰の左頬は赤くなっていたっけ。
先に手をあげた僕が悪いことは分かってる。でもきっと、神峰のことだから『自分のせいで』と落ち込んでいるだろう。
刻阪は自分の左頬を撫でた。
吹奏楽部は体力がいるし、力はそれなりに強いと思う。
明日、神峰の顔は真っ赤に腫れているかもしれない。

「皆からなんて言われるかな…。」


吹奏楽部に行ったら(当たり前だが)神峰がいる。
勘の鋭い先輩方や先生のことだ。僕たちの様子と神峰の左頬で、ケンカしたことなどすぐにばれてしまうだろう。


「早く謝らないと!
でも…なに言ったかも覚えてないし
それに、もしかしたら神峰は僕を許してくれないかもしれない…。」


“罪悪感”
“神峰が、自分の隣から離れてしまうかもしれない不安”
2つが混ざり合い、黒くどろどろしたオーラが刻阪の心を包んでいく。
神峰は刻阪にとって一番大切な人であり、モコと刻阪を深い絶望から救ってくれた恩人でもある。
最初はギクシャクしていた関係も、今では恋人になるまでに発展した。
神峰がいない人生なんて考えられない!


「でも、やっぱり謝り方は思い付かない…。」


再度頭を抱えた刻阪の肩を、誰かが叩いた。


「…神っ…!」


「刻阪くん、こんなところで何やってるの??」


神峰かと少し期待したが、そこにいたのは御器谷だった。
後ろには打樋や音羽、奏馬に邑楽、歌林までいる。


「先輩…!あの、実は…―。」


かくかくしかじかで。
一通り説明し終え、息をついたその時。
ガシッと胸ぐらを掴まれて、刻阪は軽々持ち上げられた。
こんなことが出来るのは、吹部の中でも御器谷だけだろう。


「神峰くんとケンカした上に、手をあげた…?しかも顔…?」


「刻阪、お前最低だぞ。」


「いくらなんでも叩くなんて…やりすぎじゃないかな?」


「いくら刻阪くんでも…フォロー出来ない。」


「神峰と同じ痛みを教えてあげよっか?」


「ケンカするほど仲がいいって言うが、手をあげるのはよくないぞコノヤロー!」


上から順番に御器谷、音羽、奏馬、歌林、邑楽、打樋。
皆から責められ、刻阪の目から涙が溢れた。


「分かってます。僕は最低だ。
だから謝りたいんです。でも…謝り方が分からなくて…。」


そんな様子を見た御器谷は、刻阪から手を離して言った。


「いい?よく聞いて。
謝り方なんて最初から決まってないんだ。君が伝えたいことを伝えればいいんじゃないの?」
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