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《大好き、だから》

心傷×傷人



誰かが、ついてくる。

カツカツと靴音をならして。

僕は早足で歩き、グネグネと家とは違う方へ何度も角を曲がっているのに。

同じ靴音が、ずぅーっとついてくる。

なんなんだ。なんなんだよ。

言いたいことがあるなら着いてくるんじゃなくて言えばいいじゃないか。

僕は恐怖心を押し殺し、意を決して1時間以上着いてくる足音の方へ振り返った。

そこには・・・









誰も、いない。

嘘だろ。

僕はキョロキョロあたりを見回すがどこにも、いない。

なんでだ。確かに着いてきていたんだ。

僕の妄想だったとか、絶対に絶対にない。


・・・・絶対に、誰かいる。



僕はもう一度歩き出す。

・・・・・・・・しばらくするとやはり足音が着いてきた。

カツカツ、・・・・カツカツ

一定の早さで遠くでも近くでもない距離を保ちながら

カツカツ・・・カツカツ


僕はコートの胸ポケットから携帯を取り出すと、カメラを起動させ設定を自分撮りにした。

カツカツ・・・カツカツ


内側に付いたカメラが僕の後ろを写す。

カツカツ・・・カツカ・・・

そこにいたのは・・・?















「みちゃだめ」










!?

誰かが僕の目を手で覆った。

当然だが視界には闇しかなくなる。

僕はブンブンと体を動かし、必死に自分に覆い被さるものを振り払おうとする。

「や、やめて!落とさないで!」

誰かが、僕の後ろにいる誰かが悲鳴を上げた。

そんなこと構わない。僕は自分が大事なんだ。

僕は何度も何度も体を激しく揺さぶった。












どれくらい時間がたっただろう。

後ろでドサッと落ちた音がした。

僕は少し前の方へ逃げてから落ちただれかを確認した。




まず目に入ったのは包帯。

次に明らかに大きすぎる靴。

そして最後に、顔。

顔は包帯でグシャグシャに巻かれていてよく見えなかったけれど、ちらりと見えた右の顔はとても可愛らしい少年の顔だった。

多分中学生とか高校生くらい。

その少年は、声を出さずに泣いていた。

何故かはわからない。いや、正しく言うと泣かしてしまう要因が多すぎてどれで泣いているのかがわからない。

というか



僕はこんな小さいのに怯えていたのか。



とりあえず声とか掛けておいた方がいいよな。

「えーと・・・大じょ「見ないで!!!」

拒絶。

最後まで言わせてもらえなかった上に拒絶されてしまった。

でも・・・見ないで?

普通乱暴されて(言い方おかしいけど)声を掛けられたら「来ないで!」とかじゃないか?

見ないでっておかしいよな

僕はそぅっと少年に近づき、落ちたときに掠ったのだろう。

じわじわと血がでている膝に触れた

すると少年はビクッと肩をあげて後ろに後ずさる。

「あ、痛かった?」

僕がそう聞くと少年はブンブンと首を横に振った。

そして

「・・・見ないで」

また、言った

「見ないでって、なにを?」
「・・・・顔。汚いから」

顔?

もしかして包帯で巻かれているから何かあるのか?

でも、僕がさっき隙間からみた少年の顔は綺麗だった。

・・・気になる


少し失礼なことだけど僕は少年の顔の包帯をほどくことにした。

・・・道路の真ん中でなにやってるんだろうな。

「や、やめて。本当に汚いの!」

やはり少年は抵抗して自分の顔を押さえた。

「少しだけ!少しだけでいいから!」

だが僕も負けじと少年の包帯の先を探す。

そんな葛藤をしていると、少年が叫んだ。





「好きなの!!  だからこんな醜い顔見ないで!!!!」




「は?」

いま、なんて言った?

好き?僕を?

僕は少年から手を離した。

・・・スルリ

何故だろう。

その途端少年の顔を巻いていた包帯が解けた。


「・・・・・・!!」

火傷、だとおもう

少年の顔半分には見るのも惨たらしいような火傷の後があった

「・・・醜い?醜いでしょ?・・・だから見ないでほしかったのにぃぃっ!!」


・・・・あれ。なんか、引っかかるものがある



なんで?















『 大好きだよ! 』





『 大きくなったら、渚(ナギサ)くんのおよめさん?にしてね 』





『 たすけて!!渚くん!あつぃよぉおおおぉ 』











昔、近所にいた3つ離れた男の子がいた。

いつも僕のそばにいてチョッカイ掛けてきた。

お嫁さんにして♪とか馬鹿なことをいつも僕に言ってきた。

僕はそんなヤツをいつもポカポカ殴ってた。

でも、本当に嫌いな訳じゃなかった。

あっちも、殴られるといつも泣いていたけど懲りずにいつも着いてきていた。



あの日までは


あの日、子供会でバーベキュー花火をやることになった。

僕は中2。あっちは小6だった。

『なーぎさくん!花火一緒にやろ!』
『えー・・・お前とかよ』
『いいじゃん!』

僕は嫌々、と見せかけて本当はうれしかった。

中学生になって頻繁に会えなくなっていたから、久しぶりにあえてうれしかったんだ



『あれ、ライターとろうそくないよ』
『えぇ!?花火できないじゃない』
『じゃあ危ないけど今日のゴミをガスバーナーで燃やす?』
『そうね・・・この時間スーパーやってないものね』


そんな会話が親たちとの間で交わされたとき、もうあの運命は決まっていたのかもしれない。


これを思い出すのは少々つらい。

だから結論だけ言う。



あの日燃やしたゴミは大炎上した。

その火が近くに居た子供数人を飲み込んだ。


1人は軽い火傷で済んだが、2人は全身火傷、1人がしんだ。

そして、あいつは・・・・


顔に大やけどをおった。


いまでも忘れられない。

あの悲痛な鳴き声を


その後、彼は町をでていった。

一度も、僕に会わないまま。

























「春樹(ハルキ)、か?」

まさか、とは思う

あいつはこんな可愛い顔じゃなかった・・・気がする

正直もう思い出せないのだ。

春樹がどんな顔だったのか。

なぜかぼんやりとした顔しか思い出せないのだから。


少年はボロボロと落ちていく自分の涙をずっと見つめていた。

そして、呟いたんだ。

「・・・そうだよ、渚くん」







そこからあまり記憶がない。ただ、ないて、ないて


胸がいっぱいになったことは覚えている。












あの日、春樹は大学帰りの僕を部屋の窓から見つけたらしい。

何年もあってないのによくわかったものだと感心する。

そして急いで追ってきたとか。

何年も外にでてないから靴がなく仕方なく父親の革靴を履いてきてしまったからぶかぶかの靴だったんだ。

だが、いざ目を合わせたら頭が真っ白になり、いろいろと・・・あんな感じでなったとか。


でも結果がいいなら僕は気にしない。


「渚くん、大好き。お嫁さんにしてくれる?」
「ん、もちろん」


綺麗に巻かれた包帯の彼は、僕の腕の中でずっと笑っているのだから。







END






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