はちゃめちゃリレー小説

□白昼夢マティーニ
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 洋介の中学と私が通う高校はほぼ隣に建っている。学校の名前も、最後に中学校がつくか高校がつくかの違いしかない。境にある古びたフェンスには扉部分があり、お互い行き来できるようになっている。普段そこには鍵がかかっているけれど。
 とにかく。中学の前で洋介と別れ、私は高校へ歩いた。中学生と同じ方向に歩いていたさっきまでの道と違い、中学生とすれ違うようになる。
 普通の日だ。事故なんか起こらない、普通の日。夢は相変わらず変だったけれど、所詮夢だ。内容も、同じ人物が出続けていると言うこと以外ほとんど思い出せない。一つ一つの色で出来たたくさんの虹色と、その景色に場違いな黒。あとはなんだったか。


「こういうの、漫画だったら夢に出てくる奴が転校生になってるよなあ……」
「なーごみっ、おはよう!」


 靴を履きかえたところでどーんと親しい力強さで背中を叩いてきたのは加奈子だ。普段通りな加奈子に転校生がいるかどうか聞いてみる。きょとんとした顔で「聞いてないよ?」と言われた。ですよねえ。
 一緒に教室まで歩きながら、普段通りに女子高生がするような話をする。宿題のこと、授業の憂鬱さ、そして、


「あっ、ねーえ、あの人とは何かあった?」
「……あの人?」
「黒ずくめの人だよ、事故の後和が話しかけに行った人!」
「ああー……」


 恋の話。
 といっても私と夢太郎さんは手帳を拾い拾われただけの仲なので、特に何もないよと答えておいた。逆に矢藤君とはどうなのか聞いてみる。昨日一緒にカラオケに行ったばかりだから、仲に問題はないのは知っているけれど。
 加奈子は一気に照れた。何でもないよという表情をしながら、頬は赤い。恋している顔だ。私もこんな顔ができたらいいのにと思いながらも相手がいない。
 そういえば連絡先を交換したことを思い出したのは、三時間目の英語の時間、眠りに落ちる寸前の時だった。



* * *



「やあ! 夢の国へようこそ!」
「……一つお聞きしますわ夢太郎」
「何なりと。お嬢様みたいな話し方しないでね怖いから。ここディズニーンドじゃないってツッコミほしかっ――」
「私、今まで授業では寝たことないけど。でも私今、授業中に寝てるんだよねえ」
「はい! ボクが呼びましたので!」
「今、すぐ、起こ、せ!」


 幻想的な世界で酷く軽くやり取りをする。つまらない冗談しか言わない夢太郎を蹴る。痛がっていたけれど、ここは夢だったはず。試しに自分の手の甲をつねってみた。痛くない。これは一体。
 夢太郎は緊急事態なんだ、と言った。蹴られた腰を擦りつつ、涙目を瞬かせつつ、だから真剣な顔なのに真剣味はあんまり無い。


「お嬢様が解放した悪魔が君の学校の近くにいる」
「ふーん……で? ていうか化け物の呪いって、そういやどんなんなの?」


 たかが夢で「君の学校の近くに悪魔がいる!」と言われても危機感はない。夢太郎はどこかもどかしそうにした後、それを押し殺すように下を向き、すぐ私を見据えて説明した。

 悪魔の呪いはビアンカの「害や敵意を浄化する能力」と似ているらしい。違うのは、浄化に一時的に自分の体を犠牲にしないところ。
 どこが呪いかというと、害や敵意を人から奪うと、その人がまるで別人になってしまうところが、だそうだ。例えば復讐鬼から復讐心を奪ったら、その人はもう、その人ではない。それが呪い。ビアンカ症候群。
 そして、ビアンカと悪魔のもう一つの違い。悪魔は害や敵意以外も奪う。害や敵意がないから、害や敵意以外のものを奪われた――それがビアンカ症候群最悪のケース。

 
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