はちゃめちゃリレー小説

□白昼夢マティーニ
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 私は、ハセガワナゴミを捕らえたという報告を土産にアッサムさんの元へ行き、神社に舞い戻った。神社にはアッサムさん、アッサムさんを連れてきた張本人である私、濁った緑の目を虚空に向けじっとしているリゼしかいない。キーモンさんは奥だろうか。気配があるようなないような。とにかくハセガワナゴミがいないのだ。
 アッサムさんはハセガワナゴミの姿が見当たらないことに首を傾げ、私は白い顔をさらに白くし。リゼは、意思なき人形と同じく、表情も変えない。


「……ごめんなさい、アッサムさん。私が目を離したせいです」
「んーん、ダージリンが悪いわけないじゃないか、ははは」


 カチリ。鳴ったのは私の歯だ。隣に立つアッサムさんの不吉にひんやりした空気に背筋が震える。恐ろしいのは、彼の怒りがどこへ向かうか知っているからだ。
 合図も前触れも何もなく、中空から一匹の悪魔が落ちる。この世界では珍しい服装――あちらの世界で「学ラン」という服を身につけた、少年に取りついた悪魔だ。呼び出されて早々、悪魔の体が吹っ飛び、神社の壁をぶち破る。やっぱり、と思いながらも私は止められなかった。アッサムさんが中に入っていくのに無言でついていく。
 状況を飲み込めていない悪魔は、起き上がろうと懸命に全身に力を入れていた。が、腕からすぐに力が抜け、無様にも、床に這いつくばってしまう。そんな悪魔の頭をアッサムさんの足が床に押しつける。


「アッ、サム、さ……っなん」
「お前がハセガワナゴミを見張っていないから、可愛いダージリンが可哀想に責任を感じちゃってるだろ?」
「え……? だ、って、ダージリンさんがいて、キーモンさんも来たから、俺、いなくても……ぐぶっ」


 みしり、と鳴ったのは床と悪魔の頭蓋骨、どちらだろう。
 アッサムさんは普段の普通の笑みとは違う、いつも私に向ける甘い笑みとは違う、恐ろしさを放つ笑みで悪魔を見下ろす。


「ダージリンのせいにするっていうの? ダージリンは言い訳じゃなくて自責したけど、ああなんていい子なんだろうね! 謝罪もしてないお前とは比べ物にならない」
「っ……すみ、まぜ……ぐあっ」
「言われてから謝っても遅いよ」
「……止めてあげてください」


 悪魔の頭が蹴り飛ばされたところで私は止めに入る。子供に過度に怒る父親をたしなめるように、落ち着かせるように。
 セイロンさんは「ティーパーティー」にそれほど執着していない。キーモンさんはどうなのかよく分からない。アッサムさんは悪い意味で夢太郎に、いい意味で私に執着していて、他の「ティーパーティー」幹部にはそれなりに甘く、下っぱには情を向けない。そして私は、幹部に心を開き、下っぱにそれなりの慈悲を見せ、味方でもない人間はどうとも思わない。
 つまりフルボッコされるのがハセガワナゴミならどうでもいいが、部下となると心苦しくならないわけではないのである。


「可愛いダージリン、コイツがどうなろうと君は気にしなくていいんだよ? コイツがお仕置きされるのは自業自得なんだから」
「ハセガワナゴミは来ますよ。恐らく、夢太郎も。だからあまり怒らないでください」
「仕方ない、なあ……」


 アッサムさんが軽く手を振ると、ぐったりした悪魔の体が浮かび、数メートル後ろに放られた。
 二人が来る根拠を聞きたがるアッサムさんに、私は笑って見せる。


「ここにはリゼがいます。それに、ハセガワナゴミの弟の友達も」
「そうか……! 見たところ、ハセガワナゴミは弟の友達を放っておけないだろうし、あちらから来てくれるか」


 さすがは俺のダージリン! と笑うアッサムさんに、貴方のじゃないです、と決まり文句を返し。


「招待状は、皮膚の紙に血のインクで。盛大にもてなしてあげましょう? 私達のお茶会で」



 
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