はちゃめちゃリレー小説

□白昼夢マティーニ
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「とりあえず中に入って、キーモンを救い出さないとね。きっと何者かに眠らされているんだろうから。」
優しい声で言うとアッサムは手を差し伸べ、ダージリンを神社の中にエスコートする。ダージリンは差し伸べられた手をしっかりととると、恋人繋ぎを要求する。アッサムは微笑みながら小さな手を握り返した。


「これ、は…」
「ひどいな、誰のせいなんだろう」
いざ神殿に入ってみると、建物の中は白い世界が広がっていた。

木の柱は白い塗料を塗ったように。
床は白い粉を撒いたように。
天井は白カビが生えたように。

そして捕らえたハセガワナゴミを置いていたあたりにはなにもなくて。
記憶操作するはずであったキーモンは床に倒れていて。
二人は倒れているキーモンに駆け寄る。
「キーモン、起きてくれ。これは一体どういうことなんだ?!」
「キーモンさん起きてください。大変なことになってます。」
アッサムが大声をかけても起きないキーモンの頬を軽く叩く。
パチッ と叩いた音が建物の中をこだますると同時に…

キーモンの肌が黒く、和紙に墨を垂らしたように、漆黒に染まっていった。

「…!これは…」
「ビアンカ症候群でしょうか」
「おかしいなぁキーモンは抗体を持っているはずなのに」
ダージリンは目の前のキーモンに起きた異常に震え上がる。アッサムは疑問を感じ首をひねる。
「悪魔が直接来たんでしょうか、直接呪いを…」
ダージリンは少し落ち着きを失いかけている。アッサムが異常に対して、冷静に対処しようとすればするほど。
「アッサムさん、もしかしてまだここにいるかもしれないですよ」
ダージリンは震える声で言う。普段何事にもおそれを見せないダージリンが声を震わせるとは珍しいと思ったアッサムはダージリンを落ち着かせようと答える。
「どうだろうか、僕らはまだ症状が出ていない。キーモンすらこんな状態にできるやつが、態々僕らを警戒して隠れる必要はないだろう」
よかれと思って自分の考察を伝えたが、アッサムは自分がダージリンの異変を大して気に留めなかったことを激しく後悔する。
「でも、だって、私今、なんか、寒気が…」
息を切らしながら言うもージリンは最後まで意思を伝えきれずに、ふらっと倒れてしまった。



* * *
(おかしい。あいついつまで保健室に居やがる。もうとっくに部活始まってんだよ…)

和の弟、長谷川洋介は、眼帯を替えに行った部活の友人香田那津がなかなか帰ってこないので保健室に様子を見に行っていた。

(ものもらいがなんだよ。眼帯とかつけて中二病かよ)

友人に大変失礼な回想をしつつ、運動靴から上履きに履き替え、一階奧にある保健室を目指して洋介は歩く。

階段の横を通るとき、洋介は階段から降りてきた、姉の親友と出くわした。
「あれ、束原のねーさん、ここでなにしてんの?」
洋介は加奈子のことを『束原のねーさん』と呼んでいる。尊敬と軽蔑を交えた愛称である。
「あっ…あはは〜和がいないから…屋上まで探しに…なんてねあははっ!」
「なんかいつも以上に変ですね今日…」
突然誤魔化しにケラケラ笑い始める加奈子に、洋介は苦笑するしかない。
「あっそうだ」
加奈子が手で手を打つ。この人がこれをしたときろくなことがない、と洋介は何かが起こることを覚悟した。
「これ、矢藤くんから預かってたの。長谷川くんにって。彼もなかなかシャイなところがあるのね、うふふ」
加奈子が手渡してきたのは黄ばんだ封筒、赤い蝋印がある。
「矢藤先輩が…?突然だな」
実は矢藤くんはサッカー部に属しているため、洋介の先輩にあたる。
「あの人こんな趣味なんだ…」
黄ばんだ封筒はずっしりしていた。宛名は書いてなくて、普段の彼とは遠くかけ離れた異様な不気味さを感じる。
「とにかく渡したから!じゃあね!」
加奈子は昇降口にかけていく。

一体なんだったんだ。
思わず独りごちてから、洋介は自分の目的地へ再び歩き始めた。
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