はちゃめちゃリレー小説

□白昼夢マティーニ
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 三分後。すがすがしい顔をしたビアンカが、頬に貼りついた血を拭いながら出てきた。気のせいか肌の艶が増している。


「お待たせしました和さん」
「いや、それはいいけど……夢太郎大丈夫?」
「あの程度のお仕置きなら問題ありませんわ。彼は歴戦の戦士ですもの」


 優雅に微笑んだビアンカの言葉に、自分が知る夢太郎を思い返してみる。……アレが? 嘘か買い被り――きっと嘘の方だろう。
 自己完結してから思い出す。私はここに、お守りをもらいに来たのだ。
 まるで読心術でも使ったみたいに、「お守りを渡すのでしたね」とビアンカは乳白色のワンピースのポケットを探る。ビアンカの白さは病的だ。彼女の肌とワンピースの色があまり変わらないことが、少し怖かった。


「これを、肌身離さず身に付けてください」
「……指輪」


 指輪を入れていそうなケースに入っている指輪。飾りはなく、白い。魔法みたいな力から私を守るような、すごい力があるようには見えない平凡さだ。
 お風呂の時も離しちゃダメですよと念押しされる。頷きながら、私は指輪を右手の中指にはめた。学校では紐に通して首から提げておこう。


「それは私の力を込めた指輪です。攻撃はすなわち相手の敵意。一度だけ、攻撃を吸収できます」
「一度だけじゃああんまり意味がないんじゃ……」
「所詮お守りですからね。ご利益が必ずあるだけまだマシというものです」


 言葉はつれないが、それとは裏腹に、声と表情は申し訳なさそうだった。きっと質を上げたり量産したりできない理由があるのだろう。作り手であるビアンカに負担がかかるとか。漫画ではよくあることだ、気にしない。気にしない――と思いながら、心臓は嫌な感じにバクバクしているけれど。
 ふと見たビアンカの手が黒ずんでいたので後ずさる。ビアンカも気付いたらしく、眉をひそめた。


「あああ……なんかごめん」
「あっ、いえ、違うんです。すこし、不審で」
「不審……?」
「これ、単なる汚れじゃないです。私達への悪意……」


 私、達。私だけではなくビアンカ――夢太郎も含まれているかもしれない――も。つまり、ただの人ではないというわけだ。そうすぐに思い当たった自分は天才だと本気で思った。
 ビアンカは汚れか悪意かだけでなく、悪意の矛先も分かるらしい。すごいなあと素直に口にすると、紅い瞳が細まって、赤い唇の端が遠慮がちに上がった。


「力をコントロールできないか、練習しているんです。貴方に頼るだけではいけないと今更ながら気付きまして」


 お恥ずかしい、と恥ずかしそうにビアンカは笑う。彼女の綺麗さを今まで以上に感じた瞬間だった。

 
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