はちゃめちゃリレー小説

□白昼夢マティーニ
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「ちょっ、ボクの扱いひどいよ」
黒い少年が寂しそうに呟く。
「世の中そんなもんよ。」
あれ、こいつどっかでみたこと…
彼はにやりと笑う。
「そうさ、ボクは今朝君の夢に現れた。」
そうだ、そうだよ、こいつだよ私の遅刻の元凶…思い出した今朝の夢のこと!
「なんでさっさと消えたのよ!失礼なヤツ…ちゃんと理由も話さなければ長話で遅刻したんだから」
そのおかげで助かったことは言わないけどね。
私がわめくと彼はしゅんとなって、ごめんなさいと言った。
「そうだ、あんた名前なかったでしょ。」
あぁ…と少年は困ったように言う。
「そうでしたの…またあなたは面倒なことしたのね…」
ビアンカは呆れていた。少年はごまかし笑いをしながら頭をかく。
「いい名前を思いついたのよ。『夢太郎』、今朝ぶつかった人の名前。あんたそっくりな人だったから」
「夢…太郎か…」
彼は微妙な反応である。誰だ名前をつけてくれって頼んできたのは、お前だろ!
「あら素敵な名前じゃないですか。よかったですわね、ゆ・め・た・ろ・う。」
「お嬢様…そこまで怒らないでくださいよ…すみませんって…」
彼、いや夢太郎はビアンカにへこへこしている。
「それで、夢太郎なんでここきたのよ」
「いやぁ、君にここについて説明しようと思って」
「それなら彼女からさっき聞いたわ」
夢太郎驚愕。
「あらぁ、ごめんなさい。貴方から役目を奪ってしまいましたのね。」
ふふふと可憐に、夢太郎を嘲笑うビアンカ。彼女とは案外気が合うかもしれない…
はぁ…と落胆する夢太郎。
「では、『薬』について説明してくださらないかしら。ちょうどその話をしようとしてまして。」
にっこりと微笑むビアンカは白百合のようである。美少女って羨ましいなぁ…
「そうですね。では」
夢太郎はわざとらしくコホン と咳払いした。うざい…
「ボクが君にわざわざ会いに行ったのはね、お嬢様を外の世界に連れていく手助けをしてもらう為なんだ。」
……は?
「いやぁね、君も見ただろう、彼女の『黒』を」
そう言うと彼はビアンカに近寄り、彼女の黒く染まった腕を指す。
「この症状が出る限り、ビアンカ様は外界に行けないんだ。」
うん、わかるよ。でもそこでなぜ私が出てくるんだいワケが分からぬ。
「焦んないで聞いてよ」
彼はイラッとした声で言ってきたんだけど、私の方がイラッときてんだからね、あくびでちゃうよ…
「もったいぶらずにスマートにお伝えしてあげて。貴方のそういうところよろしくないと思うわ。」
「お嬢様なんか今日は今までにないくらい辛辣ですね…」
「いつもこんなものだと思いますが」
ちょっと、私を置いていくなし…てかなんか眠くなってきたほんとに…
「ふわぁ〜ぁ」
耐えきれず大あくびする私をみて
「ほらご覧なさい。和さん元の世界に帰られてしまいますよ、伝えるべきことちゃんとお話ししなくては…」
「わかってますよー、順を追って説め…」


* * *


「こらっ和!!起きなさいよ、私の美声を聴かずに寝ちゃって…」
加奈子だ。ってことは…元に戻った?
「もうすぐ時間なんだけど、長谷川さん全然歌ってないよね…?延長しようかと思って。今日平日だから安いし…」
矢藤くん素敵な紳士だ。気遣いにおいて彼の右に出るやつはいないな。加奈子羨ましいぜ…
「そうだね…ごめん和、ちょっと調子にのりすぎちゃった。ひとりで盛り上がっちゃって…そうだ、この延長分は私のおごりにする!二人とも思う存分歌ってください!!」
よっしゃ。なんだか知らないけど加奈子の奢りなら遠慮しない。
「お言葉に甘えさせてもらうよ加奈子っ♪」
「ありがとう。でも僕は奢りじゃなくてちゃんと料金払うから大丈夫だよ。じゃあ長谷川さん、次僕が予約した曲だから先に歌わせてもらうよ。」
矢藤くんがマイクを手に取る。そしてドラムのきいたアップテンポな前奏が始まる。バンド系か?…意外だな…
そして私も歌を予約するキカイを手に取り何を歌おうか悩みだしたが、どういうわけかアーティスト検索で『ユメタロウ』と打ってしまったのである。不覚…
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