dream
□お揃い
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私はずっと自分の名前が好きじゃなかった。
「成美!」
ほらね、なんか昔っぽい。
「なぁに?」
「鳴海が探してたぜ。校門で待ってるってよ」
…ややこしいんだけど。
「ありがと。」
呼びに来たコイツは、バレンタインデーに想い人から告白されて彼女ができた。
首もとにはこっそり、その彼女とのお揃いのネックレスをしている。
…お揃いなんて恥ずかしくないのかね。
校舎を出ると、雨。
天気予報では降らないんじゃなかったっけ…
鞄から折りたたみの傘を取り出し、歩き出す。
校門の前には、大きな身体で小さな携帯をいじっている男──鳴海貴志。
中学生とは思えない風貌。
「新しい女にでもメール?」
「ば…っ!ちげぇよっ」
「まぁ別に私には関係ないけど。」
コイツに呼ばれてた訳だけど、足も止めずに横を通り過ぎる。
「今は付き合ってる女いねぇし」
「あら珍しい。…あぁ。この雨はアンタの仕業だったのね。
明日は久しぶりに予定がないから買い物に行きたかったのに。」
「なんで俺のせいになるんだよ…」
「さぁね」
「…じゃあさ。お前が付き合えよ」
「は?なんでよ」
「そしたら俺に女ができたって事で、明日は晴れんだろ?」
「はぁ?バカじゃないの?」
「いいじゃねぇか。そしたら明日、荷物持ちでもなんでもしてやるぜ?お姫様」
「あっそ。じゃあ明日12時に馬車で迎えに来てね。」
「…!おう!任せろっ!!」
「雨天中止。雨なら買い物も付き合う話も全部ナシだから。じゃあね」
今日の天気予報は外れた。
だから、明日の天気だってどうなるかわからない。
この降り方じゃ、明日もまだ止まないんじゃないかな…
運に任せるのもまた一興。
─────翌日、土曜日。
カーテンを開けると、天気は快晴。
思わず微笑む。
昨日の内に用意しておいた服に着替える。
律儀にも、12時ちょうど。
「成美ー!お友達がお迎えに来てくれたわよー!」
下からお母さんが呼ぶ。
「行ってきます」
玄関のドアを開けると鳴海の姿があった。
「馬車は?」
「日本の一般道では走らせられねぇってよ。王子様が直々に来てやってんだからそれで許せ。」
「どこが王子様よ。まぁ法律じゃしょーがない。行くよ」
玄関を出て、駅のほうへ向かう。
──お父さん、お母さん
成美って名前を付けてくれてありがとう。
声に出しては絶対言えない。
素直になれずに可愛げのない私が受け入れられる、唯一のお揃い。
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本当は一般道でも走らせられるようです。
でもそういう事にしちゃいました。ゴメンナサイ。