dream

□お揃い
1ページ/1ページ

私はずっと自分の名前が好きじゃなかった。

「成美!」

ほらね、なんか昔っぽい。

「なぁに?」

「鳴海が探してたぜ。校門で待ってるってよ」

…ややこしいんだけど。

「ありがと。」

呼びに来たコイツは、バレンタインデーに想い人から告白されて彼女ができた。
首もとにはこっそり、その彼女とのお揃いのネックレスをしている。

…お揃いなんて恥ずかしくないのかね。


校舎を出ると、雨。
天気予報では降らないんじゃなかったっけ…

鞄から折りたたみの傘を取り出し、歩き出す。

校門の前には、大きな身体で小さな携帯をいじっている男──鳴海貴志。
中学生とは思えない風貌。

「新しい女にでもメール?」

「ば…っ!ちげぇよっ」

「まぁ別に私には関係ないけど。」

コイツに呼ばれてた訳だけど、足も止めずに横を通り過ぎる。

「今は付き合ってる女いねぇし」

「あら珍しい。…あぁ。この雨はアンタの仕業だったのね。
 明日は久しぶりに予定がないから買い物に行きたかったのに。」

「なんで俺のせいになるんだよ…」

「さぁね」


「…じゃあさ。お前が付き合えよ」

「は?なんでよ」

「そしたら俺に女ができたって事で、明日は晴れんだろ?」

「はぁ?バカじゃないの?」

「いいじゃねぇか。そしたら明日、荷物持ちでもなんでもしてやるぜ?お姫様」

「あっそ。じゃあ明日12時に馬車で迎えに来てね。」

「…!おう!任せろっ!!」

「雨天中止。雨なら買い物も付き合う話も全部ナシだから。じゃあね」


今日の天気予報は外れた。
だから、明日の天気だってどうなるかわからない。

この降り方じゃ、明日もまだ止まないんじゃないかな…

運に任せるのもまた一興。


─────翌日、土曜日。

カーテンを開けると、天気は快晴。
思わず微笑む。
昨日の内に用意しておいた服に着替える。

律儀にも、12時ちょうど。
「成美ー!お友達がお迎えに来てくれたわよー!」
下からお母さんが呼ぶ。

「行ってきます」
玄関のドアを開けると鳴海の姿があった。

「馬車は?」

「日本の一般道では走らせられねぇってよ。王子様が直々に来てやってんだからそれで許せ。」

「どこが王子様よ。まぁ法律じゃしょーがない。行くよ」

玄関を出て、駅のほうへ向かう。


──お父さん、お母さん
成美って名前を付けてくれてありがとう。

声に出しては絶対言えない。
素直になれずに可愛げのない私が受け入れられる、唯一のお揃い。




**********


本当は一般道でも走らせられるようです。
でもそういう事にしちゃいました。ゴメンナサイ。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ