dream
□たまごサンド
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腹が減ったので近所の喫茶店に入ろうとすると、2人組の客が出てきた。
入れ替わりで店の中に入る。
「いらっしゃいませー!
──あ、カズくん。ご注文は、いつものでよろしいですかー?」
レジにお金をしまいながら、俺に気付いて人懐っこい笑顔を向ける店員。
「あぁ。サンキュ」
慣れた感じで店内に案内してくれるこの店員は、1つ下の幼なじみの藤村あすか。
案内してもらわなくても、俺が座る席は昔から決まってるんだけど。
最近体調が良くないらしい親父さんの店の手伝いをしている。
大して混んでもいないのに店内をパタパタと走り回る。
「マスター!カズくんセット2つお願いしまーす!」
そう言って、さっき帰った客の席へバッシングに向かう。
…2つ?
まぁいいか、と しばらく待つ。
「お待たせしましたー♪」
あすかが勝手に名付けた“カズくんセット”というのは、俺の好きなたまごサンドとりんごジュースに、唐揚げ、フライドポテト、サラダ、スープの付いたセットだ。
俺の向かいの席に同じメニューを置くあすか。
俺の前に置かれている物より随分と控えめな量だ。
「あ、私も今から休憩なんだ♪1人じゃ寂しいから一緒にいい?」
「あぁ…お疲れ」
エプロンを外し、座ろうと椅子をひくと店の電話が鳴る。
休憩に入ったはずだが、またパタパタと電話のほうへ向かう。
落ち着かないヤツ…
お得意様なのか随分と長電話だ。
電話先の相手にお辞儀をしたり、手を振ったりしている。
仕方なく俺も携帯を取り出していじっていると、あすかが戻ってきた。
「あれ?カズくん、まだ食べてないの?」
「1人じゃ寂しいから一緒に食いたいって言ったの誰だよ」
「あ、ごめん…スープ冷めちゃったよね。あったかいのに代えてもらってくるね!」
「いいよ。ココの、冷めてもうまいし。早く食おうぜ」
「うん!」
「「いただきます」」
ここのたまごサンドは本当にうまい。
俺がたまごサンドを好きなのは、ココの影響だと思う。
「カズくん、あのね。この店、閉める事になったんだ」
「親父さん、そんなに悪いのか…?」
「んー…なんか疲れちゃったみたい。」
「そっかぁー…じゃあココのたまごサンドももう食えなくなるのかー…」
「カズくんのは あたしが作るよ!」
その言葉に思わずむせる。
あすかは昔から不器用で、一緒にホットケーキを作ろうとした時に卵すらまともに割れなかった。
よく殻入りのホットケーキを食べていたのを覚えている。
「お前、作れんの?」
「今、お父さんに教えてもらって特訓中…です…」
「プッ。楽しみにしてるよ」
「うんっ!!そしたら一緒にお花見行こうよー♪あ、練習に差し入れとか行っちゃおうかなー!」
楽しそうに話すあすかをジッと見ながら英士に言われた事を思い出していると、急にあすかが焦りだした。
「ご、ごめん!なんか彼女気取りだったね…今の忘れて!」
一気にそう言うと、下を向いてモグモグとたまごサンドを頬ばる。
あすかの耳が赤い。
「あすかー。たまごサンドの特訓は俺のため?」
「…うん」
頷く事で、更に顔を下に向かせた。
もう つむじしか見えない。
「サンキュな。」
手を伸ばしてポンポンと頭を撫でてやる。
「うまいたまごサンド作れるようになったら、遊園地連れてってやるよ。」
「本当?あたし、がんばるっ!
約束だからね!破ったらハリセンボンなんだからっ!!」
勢いよく顔を上げ、目をキラキラさせているあすかが可愛くて仕方ない。
本当ならこんな条件なしであすかと色んなところに行きたい。
でも、英士に言われた言葉はあまりに的確だった。
『一馬は何かあるとすぐプレーに反映するんだから、まずは自分のメンタル鍛えろ。
じゃないとチームにも迷惑だし“自分のせいだ”って思い込んじゃう彼女もかわいそうでしょ』
あすかがたまごサンドをうまく作れるようになる時には告白できるように、俺も全力でがんばるから。
どっちが先にうまくなるか競争だな。