dream

□距離
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同じクラスの藤村あすか。
どちらかというと、大人しめで目立たない物静かなタイプだ。

直樹は1年の時から、なんとなく藤村の事が気になっていた。
クラスが違ったので話す事もなかったが、3年になってやっと同じクラスになった。

でも、たまに目が合ったと思えば逸らされるし、廊下ですれ違う時は下を向いたまま小走りで走り去ってしまう。

「嫌われとんなぁ…俺」


─────休日。

翼たちとフットサルをした帰り道。
みんなと別れた後で、直樹は本屋から出てくる藤村を見つける。

初めて見る私服姿。
控え目な小花柄のワンピースがよく似合っている。
お目当ての本でも買えたのか、紙の袋に入った本を大事そうに抱えていて、顔が綻んでいるように見える。

そんな姿を少しでも見ていたくて…
自分に気付かれたらまた走り去ってしまうだろうと、思わず電柱の陰に隠れた。

完全にストーカーだ…


「お、そこの姉ちゃん!俺たち暇してるんだけど一緒に遊ばない?」
見るからに柄の悪い連中に絡まれる藤村。

直樹の横を通り過ぎる時と同じように、下を向いたまますり抜けようとする。
「おっと、無視は悲しいなぁ。返事くらい聞かせてくれよ」
ニヤニヤと笑いながら、藤村の前に男2人が立ちはだかる。

不躾に顔を近付けてくる男たちに藤村は震えながら後ずさる。
手首を掴まれ、藤村が「嫌…っ」と小さく叫ぶのに一瞬遅れて、抱えていた本が地面に落ちた。

これ以上、黙って見てられなかった。

「何しとんねん」

「はぁ?お前に関係ねぇだろ」
藤村の手首を掴んだ手に力が込められたのか、顔をしかめた。

「関係なくても放っておけへんねん!さっさと手ぇ離せや!」

1人で2人の相手はさすがにしんどかったけど、負ける訳にはいかなかった。

「ありがとうございました…。あの、怪我…大丈夫ですか?」
レースの付いた淡いピンク色のハンカチを差し出される。

ありがたかったが、血で汚してしまうのは憚られたので手で制し、その手で口元に滲んだ血を拭う。
「クラスメイトなのに敬語かいな。まぁ随分と避けられとったもんなぁ。」
ずっと話したいと思っていたが、こんな状況は望んでいなかった。

「…コワかったの。派手な金髪で、喧嘩っぱやいし、先生とよく揉めてるし、関西弁ってすごく荒っぽく聞こえて…。
 井上くんみたいに派手な人は、私なんかみたいな地味なのは目障りなんじゃないかって思ってて…。だから…その、今まで避けちゃってて…本当にごめんなさい」
何を焦っているのか、一気に言葉を溢れさせ、頭を下げる。

「えらい被害妄想やな…。関西弁はしゃーないにしても、他は自業自得やなぁ。たった今、目の前でやらかしてしもーたしなぁ。やっぱ今でもコワイか?」

聞かなくてもコワイよな、とわかっていたのに、何を期待しているんだろう…
今だけでいい。 
こんな事があって、もう藤村と話せる機会なんて二度とないと思っていたからかもしれない。

「…ううん」

その返答が予想外で、一瞬 間が空く。

「じゃあこれからは避けんといてな。ずっと話したかったんや。少しずつでえぇから距離縮めたいねん」

照れくさそうに言う直樹と、赤面する藤村。

「あ、あの…その怪我、消毒しないと。家すぐそこなので、よかったら…」
遠慮がちな申し出。

「あー…ありがたいけど、これから翼んち行くんや。あいつらにやってもらうからえぇよ。」

さっき別れたばかりの翼の家に行くというのはもちろん嘘で。

さすがに親にこんな頭と怪我を見られたら、もう関わるなとか言われそうだ。
真面目な藤村の事だ。
関わるなと言うであろう親と、避けないでほしいという直樹の願いの間でどうしたらいいのかと悩ませるような事はさせたくなかった。

「…じゃあ明日、迷惑じゃなければお礼にお弁当作って行ってもいいですか?大した物はできないけど…。いつも購買のパンばっかりみたいだから…」

その申し出ももちろん嬉しかったが、自分の事を見ててくれてたんだという事実が嬉しかった。

「そりゃ楽しみやな。頼むわぁ!作るだけやのうて、一緒に食うてくれるんやろ?」
ニカッと笑う。

また赤面する藤村。
この時 藤村が直樹に淡い恋心を抱いたのは、吊り橋効果というヤツだろうか?

「…好きな食べ物とかありますか?」

「お好み焼きやな!」

「お弁当に入れる物の話をしてるんですー…!それに本場、関西の人にお好み焼き作るだなんて、そんな自信ありません…」
拗ねたように言う。

「じゃあ今度一緒に食いに行こうや。弁当の礼に俺が作ったる!」
力こぶを作る。

「えっと、今日のお礼がお弁当なので、それのお礼って…」

「ほんま真面目やなぁ。弁当の礼なんて後付けで、誘う理由なんてなんでもえぇねん。まっ、お好み焼きの礼にまたなんかしてもらうんもアリやけどな」

「…もう。」
苦笑いする藤村。

「それじゃあ俺行くわ。ほな、また明日学校でな!」

「うん、また明日」
今度は優しい綺麗な笑顔を見せてくれた。

縮まった2人の距離。
これからどれだけ縮められるだろうか――


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