dream

□日直
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ピンポーン―――

マンションの一室のチャイムを鳴らす。
ウチのマンションと全然違う…
綺麗だ。
そして広そうだ。

風祭くんはこんなところに住んでるんだなぁ…なんて考えていると、玄関のドアが開いた。

金髪の綺麗な顔をした男性が出てきた。
てっきりお母さんが出てくると思っていたし、あの純朴そうな風祭くんの家から金髪の人が出てくるなんて想像もできなかったので驚いた。

お兄さん…かな?

予想外の事ばかりで焦ってしまい、言葉を忘れていた。

「あ、風祭くんのクラスメイトの藤村です。今日お休みだったのでプリントを届けに来ました。風祭くんの体調はいかがですか?」

「そうなんだ。わざわざありがとう。今ちょうど将も起きてきたとこなんだ。よかったら上がっていかないかい?」

なんて素敵な笑顔なんだろう。
そして大人の雰囲気。

「え。ご迷惑じゃないですか?」

「全然!あいつ、俺が無理に休ませたからふてくされてるんだよ…。ほら、今頃は部活の時間だろ?」
お友達の顔を見たら機嫌も直ると思うんだ、と 少し困ったような笑顔を向けられる。

「じゃあ…お邪魔します。」

風祭くんと親しい訳じゃないのに大丈夫かな…と心配しつつ、中に入る。
やっぱり広いおうち…

「将、お客さんだぞ。」

「わっ!藤村さん?」

「お邪魔してます…。風祭くんがお休みなんてびっくりしたよ。心配してたんだけど、元気になったみたいでよかった」

ソファーに座らせると、お兄さんがすぐにオレンジジュースを出してくれた。

「風祭って呼びにくいでしょ?将の事は将って呼べばいいよ。俺の事は、お兄さんでも功でも好きに呼んでね。藤村さんの下の名前は?」

そう言って、この10分程度の時間に何度見たであろう柔らかい笑顔を向けられる。
その笑顔は見る度に甘くて、とろけそうになりながらも「あすかです…」と答えた。

「功兄っ!藤村さんを誘惑するな!」

「人聞き悪いなぁ。風祭って呼びにくそうだったから親切心で言っただけじゃないか…。それに下の名前で呼んだほうが親近感わくだろー?」

小さな少年に怒られて、言い訳をするように小さくなっている大きなお兄さん。
学校では見られない一面に思わず顔が綻んでしまう。

「確かによく噛みそうになるんですよね…そうさせてもらいます」

ふふっと、功さんが嬉しそうに笑う。

「あ、そうだ。将くん、これプリント。宿題だよー」

鞄からプリントを取り出して渡す。
受け取りながらも、ゲッ…ってすぐに顔に出るのがおかしくてまた笑ってしまう。

「私もまだだから、一緒にやろっか」
「うん!」

将くんはクラスの男子と違って、すぐに答えを聞いてきたりしない。
ちゃんと自分で解こうとする。
…でも、さっきからずっと同じ問題で止まっている。

「それは、この式をここに代入するんだよ」
教科書を開いて説明する。
「そうなんだ…ありがとう!」
まだ解けていないのにお礼を言われ、解けた後にもお礼を言われた。

これを何度か繰り返して、将くんの宿題も無事に終わった。

「本当にありがとう!1人だったら終わらなかったよ…」

困った顔で笑うその顔がとても可愛くて、私も笑顔になる。

「どういたしまして。それじゃあそろそろ帰るね。功さん、遅くまでお邪魔しちゃってすみませんでした」
頭を下げる。

「いやいや、俺がお願いしたんだから。将、お前ずっと寝てたから身体痛いだろ?あすかちゃん送りがてら、少し歩いてきたらどうだ?」
「うん!」
「練習はまだダメだからな。送ったらまっすぐ帰ってこい」
「はーい…」
これにはわかりやすく不服そうな返事。

もう一度功さんにお礼を言って、家を出た。
歩きながら、将くんが楽しそうにサッカーの話をしてくれる。

でも楽しい時間はあっという間で…
すぐに家に着いてしまった。

「送ってくれてありがとう。また明日、学校でね」
「うん!またね、あすかちゃん」

将くんが下の名前で呼んでくれた事に、意味はないのかもしれない。
でも功さんのおかげで、いつも見てるだけだった距離が縮まった気がする。
…ううん、縮まったよね?

軽やかに走り去る後姿を見つめる。

付き合いたいとか、そういうのはまだわからない…
でも将くんが転校してきた時から、いつの間にかずっと目で追ってた。

将くんがお休みだったこの日に日直でよかった。
功さんが家に上げてくれてよかった。
勉強が苦手じゃなくてよかった。
役に立ててよかった。

これからも、将くんの事をそっと見ていたい。
今はそれだけで十分です。

だから神様。
将くんに思う存分、サッカーさせてあげてください。
もう体調崩したりしませんように…


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