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□寒さのせいにしてしまえ
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部屋の中はこれでもかというほど冷えきっていた。
巨大な冷蔵庫の中に閉じ込められたらきっとこんな感じなのだろう。ガストの私物であるシックなカラーのブランケットに包まりながら、レンは室内の異常な寒さに耐えていた。この暑い季節、エアコン特有の冷風は本来ならありがたいと感じるが、完全に暴走してしまっている今、兵器以外の何ものでもない。

「…………っ、」
「レン、大丈夫か?」
「…………別に、このくらい……」

意地を張ってそう答えるレンは顔を真っ青にしていた。そのうえ寒さに耐えるかのように身を震わせ、時折腹をさすっている。弱っている時くらい素直になればいいのに、とガストは思った。でも、そんなところが愛おしく感じるのもまた事実で。体調が悪い相手に邪な感情を抱いてしまうなんて不謹慎だが、それもこれも全部この寒さのせいだ。
気がつけば後ろからレンを抱きしめていた。文句が飛んでこないのを良いことにガストは更に密着する。冷え切った身体を寄せ合っても体温は変わらないが、こうしているといくらかマシになるような気がした。
びくり、レンの肩が小さく跳ねる。ブランケット越しにギュルルと不穏な音が聴こえてきた。

「腹、痛むんだろ。さすってやろうか?」
「……しなくていい……」
「遠慮すんなって。ほら」
「…………」

それ以上言い返す気にもなれなかったのか。レンは無言を貫いていた。自分の良いように捉えると、ガストはレンの手をそっと退かした。手のひらであたためる気持ちで優しく撫でる。腸内が怪しい動き方をしているのが服の上からでもわかった。

「……お前は……何ともないのか……?」
「あぁ。寒いのは俺も同じだけど、こうやってレンとくっついてるし」
「なっ……! お前……っ……」

隙間から覗くレンの耳がほんの少し赤く染まる。それにガストは気付かないフリをした。そんな可愛い反応を見せられたらますます離せなくなる。
レンには悪いけれど、もう少しこのままでいられたら。


――夏の終わりに鼓動が騒めく。
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