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□恋人の中身が入れ替わったんだけど
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「はぁ……疲れた……」

 今日一日だけで色々なことがありすぎて、横になった途端疲れがどっと押し寄せてきた。
 既におチビちゃんのベッドからは寝息が聞こえてくる。けれど、実際に眠っているのはあの子じゃなくて、ノースセクターのレンだ。つまりレンの肉体にはおチビちゃんの精神が入り込んでしまっている。二人が入れ替わった原因は一日経っても分からないままだった。
 最初のうちはいつもよりうるさくなくていいかも、なんて悠長に構えてたけれど、おチビちゃ……レンはレンで大変だった。パトロール中もすぐ迷子になるから目を離せないし、方向音痴はタワー内でも変わらずで。ガストの苦労がちょっとだけ分かったような気がする。
 ベッドの上で寝返りをうつ。身体は疲れているのになんだか眠れない。ここにはいないおチビちゃんのことばかり考えてしまう。あの喧しさにすっかり慣れたということだろう。離れてる時間はそう長くはないのに、ほんの少し恋しさを覚える。気づいたら俺はおチビちゃんのことばかり考えていた。
――夢でもいいから会いたい。
ようやくうとうとしてきた頃、ガサゴソという音に起こされた。

(ああ……レンか……トイレに起きただけなら俺が着いていったりしなくても大丈夫だよね……)

 おチビちゃんは夜どころか最近は昼も一人で行けなくなったからその度に俺がついて行ってあげたけど、いま同じ空間で過ごしてるのはレンだし、過度に世話を焼かなくても大丈夫でしょ……って思ったけど、なんか嫌な予感がする。そういう予想に限って大概当たるものだ。
何もなければ寝直せばいい。そう思って眠い目を擦りながら、身体を起こす。
レンは暗闇の中でふらふらと彷徨っていた。同じ光景をルーキーズ研修の時にも見たことがある。

「ちょっと、レン。寝ぼけてるの?」
「…………んん……」
「トイレならこっちだから。ほら、ちゃんと歩いて――」

 いくら話しかけてみても夢の中にいるレンに俺の声は届かない。
面倒だけど強引にでも連れて行くべきか。そんなことを考えてるうちにレンは床に座り込んでしまった。

「はぁ……レン、レンってば。そんなとこで座りこまないでよ」
「…………ん……」
「レン、起きて。ここトイレじゃないから……って、ああ……」

立ち上がらせようと腕を掴もうとしたらくぐもった水音が聴こえてきて、俺は思わず頭を抱えた。電気をつけなくても何が起こっているか容易に想像がつく。
自分が粗相をしていることに気付いてないのか、レンはぼんやりしたままだった。恋人が入れ替わっただけで、まさかこんなことになるなんて。

「……朝起きたら元に戻っててくれないかな」

 こぼれた本音は広がった水溜まりにぽたりと滲み、夜の静けさと同化しながら溶けていった。
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